チョットしたことがトンデモない事態に発展する映画5選!
偽名で出版した小説がまさかのベストセラー!?『アメリカン・フィクション』
大学で文学を教える作家のエリソンは苛立っていた。いわゆる『アフリカン・アメリカン文学』とは何だろうかと。世間にはステレオタイプがあふれている。彼自身、その枠組みを超越する努力を続けながら、出版社からは「売れ線ではない」と拒絶されてしまう始末。いつしかエリソンは、怒りと自虐と挑発心に駆られて、エグいほどステレオタイプを貫いた一冊を別ペンネームで書き上げるのだが、これが意外にも直球で受け止められ、映画化に向け動き出すどころか、文学賞候補にも挙がるなど一大ブームを巻き起こしていく。 ほんの思いつきで生まれた作品や別人格が、自分の預かり知らないところで勝手に一人歩きをはじめる……そんな展開は様々なジャンルでお馴染みなもの。本作はまさに今の時代、誰もが口に出せない芯を食った本音を嫌味なくスマートに描き、さらにエリソンが育った、アフリカン・アメリカンではあっても比較的裕福で個性的な面々が彩る家庭環境を中心に据えることで、肌の色、差別、貧富の差に縛られない唯一無二の豊かな味わいを滲ませる。とにかく、主演ジェフリー・ライトの演技がお見事な一作。アカデミー賞では5部門で候補入りし、脚色賞を獲得した。
冴えない日常を綴ったコミックが伝説の人気作に『アメリカン・スプレンダー』
70年代、クリーブランドの病院で書類整理係として地道に働くハービー・ピーカーは、度重なる離婚に心折れそうになりながら、世の中をやぶ睨みし、けだるく過ごす毎日。だが、人生これだけは終われないと、真っ白な紙に鉛筆でコマ割りして、日々の出来事を記しはじめる。これがコミックの原作となり、味わい深いその内容にロバート・クラムをはじめとするアーティストらが作画して生まれたのが、自伝的作品『アメリカン・スプレンダー』。その面白さは従来のコミックの領域を押し広げ、巻を重ねるごとに根強い人気を呼びはじめる……。 ポール・ジアマッティが主人公ハービー役を妙演する中、時折、ハービー本人が妻ジョイス・ブラブナーやその仲間たちと共に本編に顔を出し、自ら心境を語るというドキュメンタリー的な側面すら持ち合わせた作品。なるほど、これぞまさに伝説的コミックの映画版にふさわしい特殊な語り口と構造というべきだろう。自らのガン闘病や孤独やトラブルにまつわる不幸話を赤裸々に取り入れつつ、作品を織りなす常連キャラへの眼差しはどこか慈愛に満ち、温かい。そのハービーも映画の公開から7年後、この世を去った。