「二者択一」で済まない時は…？古代ローマで行われていた「内臓占い」の正体
コノハナサクヤヒメが夫のニニギノミコトに妊娠を告げると「一晩で孕ませられようか」という夫の言葉が返ってきた。彼女は悔しさのあまり、身の潔白を証明するため火中出産を選択し、無事に3子を出産した。 【写真】怨念、性愛、神話が入り混じる「呪術」の世界をもっと読む ローマの建国神話では古代ローマでは町の名前を決めるのに鳥の飛来の数で物事を決める「鳥占い」が行われていたという。 こうした二者択一の占いは日本神話にも出てくる。それが「誓約」と呼ばれるもので、身の潔白を証明する手段として実施された。コノハナサクヤヒメが燃え盛る炎の中で出産したという話もその一つであると歴史作家・島崎晋氏は語る。
「ローマ」の由来は鳥占い
古代ローマ人は最高神ユピテル、軍神マルス、門神ヤヌスのごとき、古代ギリシアに倣った神話体系を有していたが、占いに関してはギリシアのデルフォイの神託を継承しながら、イタリア半島の先住民エトルリア人のものも受け継いでいた。鳥占いと内臓占いがそれである。 ローマの建国神話によれば、ローマ人の祖とされるのは軍神マルスの血を引く双子の兄弟ロムルスとレムスで、二人が協力して新しい町を築いた際、鳥占いで名前を決めることにした。 ロムルスとレムスはそれぞれ違う丘の上に立ち、鳥が飛んで来るのを待った。するとロムルスのいる丘には12羽、レムスのいる丘には6羽の鳥が飛来。1羽目の飛来はレムスの方が少しだけ早かった。 鳥の種類はロムルスの方がハゲタカだったのに対し、レムスの方はどこにでもいる普通の鳥。ロムルスとレムスの従者は互いに自分たちの勝利と主張して譲らず、ついには乱闘となり、不幸にもレムスが命を落としたことで、町の名はロムルスに因み、ローマと定められた。
古代ローマの内臓占い
この神話では占いの判定基準が明示されておらず、諸々の文献や石碑を見ても、鳥の数、飛来した場所、飛びかた、鳴き声、餌の食べかたなどいろいろあり、どうやら判断基準は、鳥の飛来前か後かは不明ながら、アウグル(卜占官、ぼくせんかん)という公式の占い師がその都度、提示していたらしい。後出しはおかしいと思われるかもしれないが、これは現在の占いでもよくあること。あらかじめ判断基準を提示したのでは、プロの占い師の出る幕がなくなってしまうからである。 鳥占いの歴史は古いが、2つのうち1つを選ぶのが基本なので、カバーできる範囲が狭すぎた。そのため二者択一では済まないときは内臓占いが行なわれた。 内臓占いで用いられたのは肝臓が基本だが、時と場合により肺臓や心臓が用いられた例もある。見立ての方法は非常に複雑で、長期に及ぶ学習と修行が必要とされた。 ローマはエトルリア人を支配下に置いて以降、エトルリア人の臓卜師(ぞうぼくし、動物の内臓を使う占い)を積極的に雇い、戦争において実績を重ねるのを見て、「60人臓卜師団」を組織。政策や作戦の策定に関しての提言を職務とさせた。 帝政時代には「60人臓卜師団」の他に、「皇帝の臓卜師」「都市の臓卜師」「軍団の臓卜師」なども設け、内臓占いに頼る部分が増えていくが、キリスト教から見れば異教の儀礼か魔術ののため、4世紀末にキリスト教が国教化されて以降、鳥占いともども、徐々に消し去られていった。
