ウクライナ支援 「日本は主体的取り組みを」 前駐キーウ大使・松田邦紀氏
北朝鮮の派兵は「事実上の参戦」
和平への努力の一方で、事態を複雑にする動きも出ている。米国などは、北朝鮮の部隊がロシアへ派遣され、軍事訓練を受けているとの分析を明らかにした。ウクライナとの戦闘に投入される可能性があるとして、各国は警戒を強める。 松田氏は、岸田文雄前首相が語った「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との言葉を引き、「『今日のウクライナは明日の東アジアである』という事態が起きている」と現状を表現する。 北朝鮮による派兵は、ウクライナでの戦争が東アジアの安全保障の問題とリンクしたことを意味する。北朝鮮がこの戦争を通じて得る技術や知見を、今後東アジアにおいて悪用する可能性は排除できない。松田氏は「北朝鮮の参戦は国際社会に新たな問題を突き付けている。国際社会はロシア、北朝鮮にどのように圧力をかけていくのか、具体的に議論する必要がある」と語る。
ゼレンスキー大統領から感謝の言葉
「(日本とウクライナの)強力な二国間関係を築いてくれたことに感謝したい。われわれには、かつてこのような強固な関係はなかった」 離任のあいさつのため大統領府を訪れた松田氏に、ゼレンスキー大統領は語りかけた。ゼレンスキー氏が10月3日にX(旧ツイッター)へ投稿した動画では、G7議長国として日本が果たした役割に同氏が感謝し、松田氏へ勲章を授与する場面も伝えている。 「私1人の名誉ではなく、日本と日本国民への感謝だと受け止め、大変光栄に思った」。こう話す松田氏への謝意は大統領からだけではなかった。侵攻が目前に迫り、各国がキーウの大使館を相次いで閉鎖する中、日本はG7の中で最後まで踏みとどまった。「逃げることなく、運命の日、2月24日の朝をわれわれと一緒に迎えてくれた」。離任にあたってウクライナの人々がかけてくれた言葉を、最大の賛辞として胸に刻む。 留学先の米国や旧ソ連でロシア語を学び、モスクワの日本大使館には2度、計5年間勤務。欧州局ロシア課長も務めた。さまざまな分野で人類に貢献してきたロシアへの敬意は、いまなお失っていない。だからこそ、訴えは痛切だ。「ロシアは違う道を歩めるはずだったし、歩むべきだ。一日も早く自らの非を悟らなければならない」 聞き手:nippon.com編集部・住井亨介
【Profile】
松田 邦紀 前駐ウクライナ大使。1959年、福井市出身。東京大学卒。82年に外務省へ入省。駐ロシア大使館参事官や欧州局ロシア課長、駐イスラエル大使館公使、香港総領事、駐パキスタン大使などを歴任した。2021年10月から24年10月まで駐ウクライナ大使を務める。