「アウトバーンの巡航」は160km/hがベスト アルピナD3 S ツーリング 長期テスト(2) 疲れが癒える快適さ
積算4188km 深夜の疲れが癒されるほど快適
出張を終え、空港の駐車場へ辿り着いたのは午前1時15分。自宅まで2時間近くの道のりが待っている状態で、高速道路を利用できるなら、アルピナD3 S ツーリングほど乗り込むのに望ましいクルマはないように思う。 【写真】独立時代を締めくくる1台 アルピナD3 S ツーリング B3にB4、B5 GT BMW M3も (144枚) ガソリンタンクには、約400km走れるガソリンが残っている。エンジンのレスポンスは、目が覚めるほど鋭い。シートへ身を委ねれば、疲れが癒されるほど快適だ。ところが、あいにく高速道路は通行止めになっていた。
積算5480km 惚れ惚れする中間加速のたくましさ
ベルギーとドイツの国境に存在した検問所跡を通過すると、道路標識のデザインが変わった。白地に黒のボーダーが斜めに描かれた丸い標識は、最高速度が変わったことを示す。いや、制限がないことを示している。 生まれ故郷の道ほど、アルピナの魅力を体験できる場所はないだろう。「ミュンヘンからフランクフルトへの移動で、飛行機ではなくアルピナを選ぶ人もいます」。と、同社の創業者の息子、アンドレアス・ボーフェンジーペン氏から話を聞いたことがある。 D3 S ツーリングへ失礼がないよう、右足へ力を込める。スルスルとスピードが上昇していく。近年のディーゼルエンジン人気はすっかり下火だが、やはり中間加速のたくましさには惚れ惚れする。0-100km/h加速4.6秒という数字以上に鋭く感じる。
開発された場所でクルマの特性が決まる
あっという間に160km/hを超えた。ひと呼吸をおいて、再びスピードメーターへ目を配ると240km/hを超えていた。可能な限り視界の遠くへ集中する。遅い車両が目に入ってきたら、すぐに右足を緩める。追い越したら、再び加速する。 D3 S ツーリングの最高速度は、273km/hだという。今回はそこまで試さなかったが、250km/hを超えているのは何度か目撃した。 ブレーキディスクは、カーボンセラミックではなくスチール製だが、繰り返し減速してもフィーリングは変わらない。これだけスピードが出ていれば、冷却に充分な気流がある。ペダルへ力を込めれば、制動力も頼もしく強くなる。 ステアリングの安定感も抜群。ピタリと真っ直ぐ突き進む。 アウトバーンの一部の区間では速度制限がないことが、ドイツのパワフルなクルマが良くなる理由の1つだろう。クルマが開発された場所で、特性が決まることには納得できる。舗装が悪くカーブの多い英国では、乗り心地と操縦性に優れたクルマが生まれやすい。 クルマの設計で意図された場所を運転することは、非常に楽しい。ドイツを定期的に横断するような仕事をしているなら、D3 S ツーリングを超える移動手段は限られるはず。 電車は運行時間が決まっていて、駅でしか降りられない。飛行機も同様だが、1時間のフライトでも、搭乗の前後に1時間ほどの余裕を見る必要がある。そもそも、クルマの運転自体が楽しい。歳を重ねても。