日銀 マイナス金利解除へ“布石”着々?注目すべき「5つの発信」を読み解く
日本銀行が10年以上続けてきた大規模な金融緩和策が、いよいよ大きな転換点を迎えようとしている。2月には日銀幹部らから、マイナス金利政策の解除など、金融政策の修正を念頭に置いた発信が相次いだ。注目の5つの発信から、マイナス金利解除の時期を探る。
■ブラジルでの会見で植田総裁は慎重な答弁も、マイナス金利解除の検討は大詰めか
日本時間3月1日の早朝。ブラジル・サンパウロでG20財務相・中央銀行総裁会議の日程を終えた植田総裁は、淡々とした表情で資料の束を抱えて座席に着き、財務省の神田財務官との共同会見に臨んだ。報道陣の質問は、G20の会合の内容より、植田日銀が3月18日・19日に行われる次の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除に踏み切るのかどうかについての現状認識に集中した。日銀が掲げる2%物価目標の持続的・安定的な実現が見通せる状況には「まだ至っていないということかと思う」と述べた植田氏。マイナス金利解除にむけた重要な判断指標と位置づける春闘については「特に大企業を中心に前向きな姿勢がかなりの企業から発せられている」と評価したものの「ある程度集計された数字が出てきたところで議論したい」などと、慎重な答弁に終始した。 ただ、足元の消費者物価指数が5か月連続で2%台を維持し、去年を上回る賃上げへの期待が高まる中、日銀はマイナス金利の解除に向けて自信を深めつつある。
■2月に相次いだ日銀の発信…5つの注目発言
その証拠に、2月には日銀幹部らから、マイナス金利の解除や「その先」の金融政策のあり方に関する発信が相次いだ。中でも5つの“注目の発信”を紹介したい。 (1)2月8日 内田副総裁が奈良県での講演で「マイナス金利解除後」に言及
マイナス金利解除後の政策金利について踏み込み、「仮にマイナス金利を解除しても、その後にどんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになると思う」との見通しを示す。 (2)2月9日 植田総裁も国会答弁で追認 「現時点で見えている将来の動きを前提とすると、先行きマイナス金利の解除を実施したとしても、緩和的金融環境が当面続く可能性が高いと考えている」と、前日の内田副総裁と同様の見方を示す。 (3)2月22日 植田総裁が国会答弁で「いまはインフレ」 野党議員の「いまインフレか、デフレか」との質問に対し、「(消費者物価は)去年までと同じような右上がりの動きが続くと一応予想している。そういう意味で、デフレではなくインフレの状態にあるというふうに考えている」と答弁。 (4)2月26日 日銀の調査統計局のリポート「賃金・物価の相互連関を巡る最近の状況について」 日銀が2%物価目標の「安定的な実現」を判断するにあたって重視している「賃金と物価の好循環」について、「賃金上昇を販売価格に反映させる動きが、徐々に広がっていることが示唆された」などと指摘。 (5)2月29日 高田審議委員が滋賀県で講演 高田氏は日銀の金融政策を決める9人のメンバーのうちの一人。「不確実性はあるものの、2%の『物価安定の目標』実現がようやく見通せる状況になってきた」とした上で、「今日のきわめて強い金融緩和からのギアシフト、例えば、イールドカーブ・コントロールの枠組みの解除、マイナス金利の解除、オーバーシュート型コミットメントの在り方など、出口への対応も含め機動的かつ柔軟な対応に向けた検討も必要と考えている」などと発言した。