日銀 マイナス金利解除へ“布石”着々?注目すべき「5つの発信」を読み解く
■日銀ウオッチャーが注目したのは…
こうした相次ぐ日銀の発信を、日銀ウオッチャーのエコノミストたちはどう分析しているのか。 第一生命経済研究所の藤代宏一氏は、マイナス金利解除後の金融政策のあり方に踏み込んだ2月8日の内田副総裁の講演に注目。「日銀内部では金融政策の見直しはかなり進んでいて、だからこそ(マイナス金利解除に向けて)ある種の地ならしが行われた」と分析する。また、マイナス金利解除後も「緩和的な金融環境が当面続く」とした正副総裁の発信について「マイナス金利を解除した後に、海外の中央銀行なら連続して利上げをしていくが、それとは全く違う、ということを強調しているのではないか」と指摘した。ただマイナス金利解除の時期については、「3月の決定会合で解除を強く示唆した上で、4月の決定会合で解除するのではないか」とみる。 一方、大和証券の岩下真理氏は、2月29日の高田審議委員の講演を、年明けから続く日銀の「政策修正のお知らせ」のひとつだと位置づける。およそ半年前に行われた前回の高田氏の講演と比べ、2%の物価安定目標の実現が見通せる状況に変化したことが明確に発信されており、「日銀内部ではマイナス金利解除に向けて最終調整の段階になっている」と分析。3月13日の春闘の集中回答日で高い賃上げ率のデータが出れば、あとはマイナス金利を解除するかどうかは「植田総裁の覚悟次第ではないか」と指摘した。また、4月の決定会合(25・26日)に比べ、3月の決定会合前の方が、好調な経済統計データが多いとみられることも、3月の決定会合でのマイナス金利解除の判断の後押しになるとの見方を示した。
■「政治の動き」にも障害なし? 早期のマイナス金利解除は岸田政権側も容認か
岩下氏の見方と同様に、日銀内からは「(マイナス金利の解除は)あとは植田総裁ら執行部の判断次第だ」という声も漏れてくる。 こうした中、もうひとつ、日銀が政策変更の判断にあたって留意する必要があるのが「政治の動き」だ。1998年に改正された新日銀法は、日銀の金融政策運営の自主性を担保する一方で、金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも定めている。金融政策はあくまで日銀の判断で行われるが、時の政権の方針と全く異なる政策を簡単に取ることもできない、というわけだ。例えば、黒田前総裁の下で進められた大規模な金融緩和は、これを強く支持する安倍政権の方針とも一致していた。 今回、マイナス金利の早期解除に岸田政権側から強い“注文”が入る様子は見られない。内閣支持率が24%(NNNと読売新聞社・2月世論調査)に沈む中、日銀とのやりとりに関わるある政府関係者は、「岸田総理は、衆議院解散に打って出るなら、経済を成果にして解散するしかない。日銀がマイナス金利を解除し、日本経済がデフレから脱却したという“お墨付き”を与えてくれれば、政府としてもデフレ脱却宣言をして、経済が好転したことを成果に衆議院を解散し総選挙に打って出ることができる。マイナス金利の解除は、自身の後押しになると考えているだろう」と指摘する。別の政府関係者は、史上最高値を更新した日経平均株価について「選挙前に株を下げるような動きは困る」と話すが、エコノミストの間でも、マイナス金利解除が現在の株高基調に大きく水を差すリスクは低いとの見方が広がっている。一方の日銀内でも「岸田政権の経済政策の方向性と、日本銀行の金融政策の方向性は同じだ」という見方が大勢だ。 マイナス金利解除に向けた材料が揃いつつある中、果たして日銀は3月の決定会合で解除に踏み切るのだろうか。