労働組合の「婚活イベント」各地で盛況! 異業種の組合と連携、マッチングアプリより安心「組合員の人生と社会に貢献したい」/連合総研・中村天江さん
「組合費を婚活に使うな」との批判、大きなストーリーで乗り越える
――なるほど。いろいろと努力と工夫を重ねているのですね。 しかし、一般に組合費は収入や年齢に応じて高くなります。組合が独身者しか恩恵を受けない婚活支援に取り組むと、組合費を多く負担する既婚者から「もっと賃上げ闘争や労働条件の改善に組合費を使うべきだ」と文句が出ることはありませんか。 中村天江さん もちろん、そういった声が出ることはあるそうです。内部からの批判を乗り越えるには、組合自身が「大きなストーリー(物語)」を持つ必要があります。組合内で婚活のような労働組合の一義的な目的ではない活動が認められるためには条件が2つあります。 第1に、多岐にわたる組合活動において、取り組みの主従をはっきりさせることです。つまり、賃上げやハラスメントの防止といった、労働条件・労働環境の改善のための取り組みをしっかり行い、一定の成果をあげたうえで、それに影響しない範囲で他の取り組みを行う。例えば、日本電気労働組合本社支部は、春闘期間中はレクリエーション活動を行っていません。 第2に、活動の大きな方向性について組合内部で合意していることです。先ほど述べた日本電気労働組合本社支部は、組合の組織発展と組合員個人のニーズの両面から、「組合活動の価値は交流にある」と位置づけています。労働組合同士の組織交流でも、仕事上のしがらみを超えて競合他社の人達と話すことができ、それが仕事のしかたや自身のキャリアを考えるきっかけになります。 つまり、他社・他労組との交流が、組合員の人生に寄与するという大義名分があります。複数の事業からなる交流活動の全体がうまくいっていれば、その一部である婚活支援だけをどうこうするという話になりません。
ボランティアこそ労組の使命、東日本大震災の組織派遣は自衛隊に次ぐ規模
――組合員の人生に貢献するという点では、先ほどの大分県の「であい・こうりゅう・あんしん」の活動方針と通じるものがありますね。 中村天江さん クレジットカードのクレディセゾン労働組合(組合員約4000人)の方法も、相通じる点があります。ここもj.unionを介して、三菱UFJニコスやファミリーマート、ローソンなどの労組と一緒に「異業種交流+社会貢献」の活動を行なっています。 「スポGOMI」といって、ゴミ拾いを競い合ってスポーツとして楽しみ、自分の健康と地域の衛生に貢献するイベントです。最初から婚活をうたわなくても、若者同士が出会い、盛り上がれば自然にカップルが誕生することもあります。 「異業種交流+社会貢献」という活動内容であれば、組合内部で共感や賛同を得やすいので、絶妙な企画になっています。実際、参加者や参加組合がどんどん増えているそうです。 ――労働組合を通じて「出会い」が「社会貢献」につながるのですね。 中村天江さん 出会いと社会貢献は一見まったく別の活動ですが、労働組合を介すとこれらをつなげることができます。労働組合は助け合い・支え合いを大事にしているので、昔から社会貢献活動を行っています。例えば、東日本大震災の組合ボランティアは、組織派遣としては自衛隊に次ぐ人員規模でした。 企業などで働く人が約6100万人のところ、労働組合加入者は1000万人近くいます。労働組合は権利主張団体としての顔があり、ステレオタイプな闘争的イメージが強いですが、実際の活動内容はもっとずっと広いです。個人と国家のあいだにあるコミュニティーとして、人々のつながりを生み出し、新たな場に誘う社会的機能ももっています。 人口減少や孤独・孤立の問題が深刻になっていくなかで、婚活支援も含めて、労働組合のネットワークを外に向かって広げる力には大きな可能性があります。労働組合を経済的・政治的に位置づけるだけでなく、社会的役割からとらえることが、これからの時代は大切だと考えています。 (J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎) 【プロフィール】 中村 天江(なかむら・あきえ) 連合総研生活関連研究所主幹研究員 商学博士(一橋大学)。専門は人的資源管理論。「働くの未来」をテーマに調査・研究・提言を行う。1999年リクルート入社、2009年リクルートワークス研究所に異動。2021年10月、連合総研に転職。 『労働組合の未来を創る ―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』連合総研(2024年、共著)を主担当として推進。著書に『ジョブ型vsメンバーシップ型 日本の雇用を展望する』中央経済社(2022年、共著)、『30代の働く地図』岩波書店(2018年、共著)など。