【甲子園100年物語(10)】土は生きもの シーズンオフにはマッサージ
8月1日に甲子園球場は開場100年を迎える。「甲子園100年物語」と題した連載で、“聖地”の歴史や名物の秘話などを紹介する。(井之川昇平) 甲子園の土はその底が深い。表面の土は深さ30センチ。その下に石炭ガラが20センチ。さらにその下に基礎石が50センチの厚さに敷き詰められている。 甲子園の土は水はけがいい。河川跡に立地していることなど、その要因はいくつか挙げられるが、一つは、土の下に石が敷かれていることにある。土は水を吸うが、石は水を流してくれる。その石を活用した排水技法もある。雨量が多い時、現在は吸水パッドで水を除くことが多く、たまにしか用いられなくなったが、以前はよく、グラウンドキーパーが長い棒状の杭(くい)をグラウンドに何か所も突き刺していた。杭で基礎石をえぐるようにして空洞スペースを作る。すると、そこから水が流れ落ちていくのだ。 一方、土にとって、水を流してばかりでは困る。適度な硬さを保つには水分が必要だ。水はけと水持ちの良さ。その両面を可能にするため、シーズンオフの冬、甲子園の土はまるで畑の様相を呈する。耕運機で約25センチも土を堀り起す。そして、雨が降るのを待ち、水分を含んだところで土を固める。甲子園の「土守(つちもり)」と呼ばれた伝説のグラウンドキーパー藤本治一郎は著書で、この掘り起こし作業を、マッサージのようだと表現している。「人体に例えれば、凝った肩をもみほぐし、血行をよくするようなもので、土も一年間の“凝り”をとってやると、水引がよくなる。弾力もつく。土は生きものやなあ、とつくづく思う」(講談社「甲子園球児 一勝の“土”」)。 現在の土は、岡山、三重、鹿児島、大分、鳥取などの土をブレンドしている。砂は、中国福建省に求めた時代もあったが、現在の産地は京都・城陽。その黒土と砂を配合することで「甲子園の土」が生まれる。以前は春と夏で土と砂の配分が異なった。夏は黒土が多め。強い日差しのもとでも白球を見やすくし、選手の目を疲れさせないようにブレンドする。春は砂を増量。雨が多いので、水はけのよい砂を多めにした。天気予報の精度が向上した近年は防水シートを効果的に使用できるようになったため、春に砂を増やすことはなくなったが、芝生には今も季節に応じた模様替えが施されている。
報知新聞社