熊本・天草地域で松枯れ被害が拡大 景観に悪影響、観光業者からは懸念の声 害虫が原因…不明な点も多く
熊本県の天草地域で松枯れ被害が拡大している。風光明媚[めいび]な景観が損なわれ、松林の防風・防砂の機能低下にもつながるため、観光関係者らから懸念の声が上がる。原因は害虫で、近年の猛暑の影響も指摘されている。地元自治体は薬剤散布や伐採など対応に苦慮している。 11日夜、上天草市松島町の天草3~4号橋近くの国道266号。熊本県の委託を受けた業者が、車線規制して枯れた松を伐採した。昼間は通行車両が多いためで、作業員が道沿いや周辺で次々と松を切り倒し、トラックに積み込んだ。 ■地域のシンボル 県天草広域本部林務課によると、松枯れの原因は松くい虫(マツノザイセンチュウ)。毎年、一定程度の被害はあるが、ここ数年目立っている。センチュウが松の中に入って増殖すると、水を吸い上げる管が詰まって枯れる。媒介する体長3センチほどのマツノマダラカミキリが、枝をかじる際に侵入するという。 同市の天草四郎観光協会の福田丈人会長(56)は「地名が『松島』だけに、松は地域のシンボル。観光客をがっかりさせかねない」と懸念する。被害は天草全域に広がっており、苓北町の富岡海水浴場や火力発電所周辺、天草市天草町の海岸沿いの国道389号など、観光地の幹線道路沿いでも広く見られる。
同広域本部によると、天草地域3市町の被害は直近5年で少なくとも3810立方メートル。高さ約10メートルで約2万本に相当する量だ。 3市町は、県の補助で対策を講じている。カミキリが活動を始める春に保護が必要な箇所への薬剤散布、カミキリの幼虫が枯れた松で成長するのを防ぐための伐採、健康な松には、センチュウへの抵抗力を高める薬剤を注入している。 海と松の景観は重要な観光資源。被害拡大に危機感を強める上天草市は本年度、薬剤散布を春と夏の2回実施した。伐採と合わせた費用は2300万円。担当職員は「枯れ方が激しい場所もあり、全部カバーできない」と困惑する。来年度は薬剤注入も検討している。 ■20年前も大規模発生 天草地域は広範囲が国立公園区域。環境省天草自然保護官事務所(天草市)は「被害状況を注視し、関係機関と連携し、対応を検討したい」とする。 天草地域では約20年前にも被害が大規模に起き、抵抗力が強い種が植えられた。ただ、同広域本部林務課の福山健一郎課長(51)は「時間の経過で抵抗力が落ちたのかもしれない」と推察する。そうした意見に対し、森林総合研究所林木育種センター九州育種場(合志市)は「松枯れの原因は不明なことが多い」とも説明する。
一方、地元では近年の猛暑を指摘する声もある。伐採駆除を担う上天草市の林業事業者、未来創造あまくさの本田亮代表理事(46)は「夏を過ぎても気温が高く、カミキリの活動期間が長くなっているのではないか」と見ている。 福山課長は「松は景観保全や、住家を強い風から守るなど公益的機能が高い。未来に残すために、引き続き地元自治体と防除に努めたい」と話している。(丸山宗一郎)