【重たい加入義務】年金滞納、強制徴収もありうるが…老後に受け取る「平均的な年金額」は?〈公認会計士が解説〉
年金は不払いでも罰則はないが、「強制徴収」はある
上述した通り、強制加入となる公的年金だが、国民年金は日本に住む20歳から60歳までの人は、必ず加入することになる。 強制加入とはいえ、国民年金を払わないために罰則を受けることはないが、年金を滞納していると「強制徴収」される場合がある。 日本年金機構は、年間所得300万円以上で7ヵ月以上滞納している人に督促状を送付しており、その督促状を受けても納めない人が強制徴収の対象となる。 強制徴収により財産を差し押さえられる人は年間に2万人以上いるといわれている。 差し押さえというと大げさに聞こえるかもしれないが、年金の加入が「義務」というのはそういうことなのだ。 とはいえ、収入がない学生で、保険料の支払いが困難な場合は、「学生納付特例」を申請して承認されれば、在学中の保険料は猶予される。 注意してほしいのは「学生納付特例」は、使えば保険料を払わなくてよくなる、という制度ではなく、「保険料を後払いできるよう、納付が猶予される」という制度だということだ。 猶予分の年金をあとから納めることを「追納」といい、10年以内に納める必要がある。もし追納しなかった場合は、将来の年金がその分減額されてしまう。 また、学生だけでなく、失業した人、収入が減った人など、生活が厳しくなった人に対して支払いを猶予したり、免除したりする制度もあり、審査のうえ「全額免除」「半額免除」「4分の1免除」「4分の3免除」を受けられる。 大切なのは、万一保険料を払えなくなってもそのまませず、きちんと役所や年金事務所に行き、免除申請などの手続きをすることだ。 これを怠ると、病気やケガで障害状態になったとき、保険料の未納を理由に、障害年金がもらえないといった場合もあるため、十分注意してほしい。
自助努力で老後の備えを厚くする「私的年金」
「私的年金」には上述した通り、「企業年金」「国民年金基金」「iDeCo」などがあるが、これらは、公的年金にプラスして、自助努力で老後の備えを厚くする、という考えのもと、設計された制度である。 「企業年金」の有無は勤務先によって異なるが、もしある会社に勤めているなら、原則として全員が加入することになる。 「国民年金基金」は自営業やフリーランスのための制度だ。国民年金に上乗せして掛金を支払うことで、将来受け取る年金額を増やすことができ、一定の範囲内で掛け金をいくら払うのか、受け取り方についても自分で決めることができる。また、公的な制度であるため、税制優遇もある。 「iDeCo」は、会社員でも自営業者でも専業主婦(主夫)でも、20歳から65歳未満で公的年金に入っている人なら、誰でも加入できる制度で、iDeCo自分自身で年金を設計できる、というのが一番の特徴となっている。 iDeCoは自分で掛け金の金額を決め、その掛け金を投資信託や預金など、自分が選んだ商品で運用する。 最大のメリットは、掛け金が全額所得控除されて税金が安くなったり、利息と運用益が非課税になったりという、さまざまな税制優遇を受けられることだが、iDeCoは普通の投資と違い、あくまで老後の資金作りが目的であるため、お金を受け取れるのが原則60歳以降である点には、十分な注意が必要だ。 なお、2024年に新しい制度の運用が開始された「NISA」も、iDeCoと同様に政府が国民の将来の資産形成を支援するために開始された制度で、個人が投資信託などの商品を選んで税制優遇を受けながら資金運用することができる。 iDeCoとNISA最大の違いは、お金を引き出すタイミングだ。iDeCoは原則60歳以降でないと引き出せないが、NISAはいつでも引き出すことができる。 NISAの大きな特徴として、税金の優遇があるが、これは岸田政権の看板政策である「資産所得倍増プラン」によるもの。 長引く低金利で、貯蓄だけでは資産は増えない。そのため「貯蓄から投資へ」という流れを進め、個人個人で老後に備えてもらおうというが「資産所得倍増プラン」の狙いなのである。 当然だが、投資である以上、損するリスクはある。だが、iDeCoもNISAもさまざまな商品が用意されており、リスクが低い商品を選べるようになっている。 再び深刻な金融危機が起これば影響も避けられないだろうが、だからといって預金を積み重ねても、なかなかお金は増えていかない。リスクをきちんと理解したうえで、将来への備えを考えておくことが重要だ。 岸田 康雄 公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
岸田 康雄