八角理事長、力士数減少歯止めへ総力結集 旧宮城野部屋問題にも初言及「今は修業の時期」再興の可能性も示唆…単独インタビュー
3月に再選し、実質5期目を迎えた日本相撲協会の八角理事長(60)=元横綱・北勝海=が11日までにスポーツ報知の単独インタビューに応じた。力士数減少に危機感を示し、新弟子発掘へ親方衆の“総力結集”を掲げ、来年にはロンドン公演を行う計画を明かした。また、元幕内・北青鵬の暴力問題で、当面閉鎖となった宮城野部屋の話題にも協会トップが初めて言及。将来的な再興の可能性を示し、宮城野親方(元横綱・白鵬)に出直しを求めるとともに、今後の成長を願った。(取材・構成=三須 慶太、今関 達巳) ―理事長として実質5期目。取り組みたいことは。 「大相撲を同じ形で残していきたい思いはずっと一緒で、伝統を守るのは一番大変なこと。(重要視したいのは)特に新弟子確保です。やはり力士がいてこその世界ですから」 ―今年初場所には力士数が45年ぶりに600人割れとなった。 「協会には部屋持ち、部屋付き含めて100人余りの親方がいますが、全員がきちんとスカウトにあたらないといけません」 ―全員が危機感を持つ。 「そういうことです。(MLBドジャースの)大谷翔平さんではないですが(子どもたちには)夢を持ってもらわないと。お相撲さんになったらたくさんお金を稼げるんだという気持ちも大事だと思うんです。そのためには待遇を良くしてあげたい。ただコロナ禍(期間合計)で100億円超の赤字が出たので、そういう意味では大変です。いい相撲を維持しながら、国技館の改修、貯金。将来的に新しい国技館を建てられるようにやっていかないといけないと思っています」 ―現在も国技館は改修工事を進めている。 「あと20、30年はもたせたいと思っています。そこで積み立てもしながら後進のために新国技館のプランを立てて、あとは後輩たちに頑張ってくれればいいと考えています」 ―来年は当時の財団法人として設立されて100年。何か記念行事などは。 「来年12月に式典もやる方向で、アイデアを出し合っているところです。(英国の)ロンドン公演なども(話が持ち上がっている)」 ―3月の春場所前には元北青鵬の暴力問題が判明。暴行トラブルは何度か起こっているが再発防止案は。 「研修会なども含めて師匠並びに(指導者)全員が口を酸っぱく言うしかありません。何回言ってもだめだからと諦めるのでは、どうしようもない。何度も繰り返すことが大事。その中で師匠が協会に対して隠ぺいを図るようなことをしては一番いけません」 ―北青鵬は引退し、宮城野親方は2階級降格などの処分を受けたが。 「宮城野親方が先にきちんと協会に報告してくれれば、北青鵬は一発レッドカードということにはならなかったでしょう。1、2場所出場停止のイエローカードだったと思います。それが引退勧告というコンプライアンス委員会の答申になった。あれだけ素質のある力士が引退という結果になったのは、非常に残念です」 ―宮城野部屋も当面閉鎖で伊勢ケ浜部屋に転籍という厳しい対応となった。 「宮城野親方が見て見ぬふりでは部屋を持つ資格がないと思っていました。ただ部屋を取り潰したわけではなく、努力していれば、いずれチャンスがあるわけです。だから“預かり”という形にした。今は修業の時期だと思ってもらいたい。頑張って認められれば、すぐに(部屋再興が)できるわけですから。個人的には(預かり期間を)あまり長くする必要はないと思っています。将来的に『この時期があったから、今の繁栄があるんだ』と思えるぐらいになってほしいです」 ―しばらくは伊勢ケ浜部屋所属として過ごしていく。 「伯桜鵬にとっても関取衆にもまれていくのはいいことだと思いますね。伊勢ケ浜部屋の力士も(宮城野部屋勢が)入ってきて、いい相乗効果になってくれればいいですね」 ―土俵内の話題も。春場所は尊富士が110年ぶり新入幕優勝を飾った。 「新入幕の時は相撲を取るだけで精いっぱいという記憶がある。尊富士は重圧もあったでしょうが、力を出し切れる精神力はすごいものです。“横綱慣れ”しているといいましょうか。私も千代の富士さんとよく稽古をやったから、本場所で横綱、大関、三役と当たっても全然気後れしなかった。尊富士は部屋にたくさん幕内もいる。(対戦相手の)大体の力加減というのはわかるでしょうからね」 ―ざんばら髪の大の里も優勝争いを演じた。 「本当に横綱になってほしい、なってもらわないと困る人材。尊富士も含めて前に出る姿勢がいいですね。スピードの尊富士に対して、大の里は馬力。まだ細かい技術を見ていない中での活躍ですから、かなりの期待感はありますね」 ―一方で上位陣は2人を走らせる結果に。 「やはり番付社会ですから、反省しなければいけません。尊富士をビシッと止める力を見せないと」 ―次の横綱というのがなかなか出てこない。一番近い大関陣の課題は。 「横綱、大関は大相撲の代表。勝ち方にもこだわらないといけませんね。例えば(春場所14日目に)豊昇龍が琴ノ若の一番で変わって(右上手を狙いに行き)敗れた相撲がありましたね。あれはいけません。勝ち負けではなく魅力ある相撲を見せるんだという気構えがほしいです」 ―新大関の琴ノ若は10勝。及第点だとは思うが。 「来場所から(琴桜に)変えるのかな? (横綱に)上がってほしい。と言うことは優勝しないと、どうしようもないですね。精神面も含めてまだひ弱さがあるような気がします。まだ投げを打つ癖がある。15日間、圧倒的な相撲を取り続けてもらいたい。そのためには稽古場からの鍛錬です」 ―一人横綱の照ノ富士はどのような評価か。 「満身創痍(そうい)ですが、気力を含めよくやっていると思いますよ」 ―来月には夏場所が控える。期待するものは。 「力士たちは頑張っていると思います。でもやはり横綱、大関が力を示して、その中で優勝決定戦をする展開になってくれれば。若手の活躍はいいですが、それが毎場所のように続くとね。横綱、大関が頑張らないと優勝の価値が下がってしまう気がしますね。来場所は上位陣が彼らにギャフンと言わせるくらいの気持ちで土俵に上がってほしいですね」 ◆大相撲の海外公演 相手国からの招待を受け日本相撲協会が主催する。諸外国で大相撲の取組などを紹介し日本の伝統文化を広める公的な意味合いがある。開催なら2005年の米ラスベガス公演以来となる。09年にロンドン公演が決まっていたが、世界的な金融危機などの影響で中止に。海外巡業は、国内巡業と同じように現地あるいは日本の勧進元が主催するため私的な色彩が強い。直近では13年にジャカルタ(インドネシア)で開催された。 ◆八角 信芳(はっかく・のぶよし)本名・保志信芳、第61代横綱・北勝海。1963年6月22日、北海道広尾町生まれ。60歳。79年春場所、初土俵。87年夏場所後に横綱へ昇進。優勝8回。92年夏場所前に引退。93年9月に年寄「八角」を襲名し、九重部屋から独立して部屋創設。2012年に理事に初当選。広報部長などを歴任し、14年から事業部長。15年九州場所中に北の湖前理事長の死去受け、代行を務め、同年12月に第13代理事長に選出された。
報知新聞社