京都で注文をまちがえる料理店「認知症への理解を深めて」
キャストたちに2時間勤務分の給与を手渡し
孫を含めて家族3世代4人で参加した70代女性は「カレーを頼んでラーメンが来ても楽しいじゃありませんか」と、注文まちがえ歓迎宣言。「きょうのような取り組みをいろんなお店で始めてほしい。認知症の人であることが伝わるバッジでもつけてもらったら、注文をまちがえても怒る人なんていませんよ」と提案し、一般店舗への広がりを後押ししていた。 終了間際、ひと休みする70代の男性キャストに「疲れましたか」と声をかけると、「たいしたことしてへんから疲れてない。人それぞれやけど、わしはうまくいったと思う」と、元気に話した。 キャストの長女が顧客として参加。「父が料理をこぼさずに運べるか心配でしたが、なんとか大丈夫でした」と安どの表情を浮かべる。長女によると、キャストは長らく鉄工所で働く職人だったという。「父が働く姿を一度も見たことがなかった。きょう初めて見ることができて感激しています」。親子のきずなを確かめ合うひとときになった。 顧客を送り出したキャストたちに、2時間勤務分の給与が手渡しされて業務が終了。平井さんは「事故やトラブルが起きず、ほっとしている」と語るとともに、「キャストの皆さんにお給料を渡したとき、合掌をして喜ぶ方がいらっしゃいました。開催してよかった」と、確かな手応えをつかんだ様子だった。
地域の持ち味を生かしながら各地で開催へ
注文をまちがえる料理店は発起人の小国さんらが昨年9月東京で開催。認知症を抱えた人たちが働くことを通じて、人と接したり社会とつながる環境づくりを目指す。 理念を共有し、「注文をまちがえる」の共通ネーミングで開かれるカフェやレストランなどのイベント開催が各地で広がりつつあり、関西で開催されるのは初めて。東京から駆けつけた小国さんは「福祉に関連する取り組みは、地域の皆さんが地域の実情に沿って進める地元完結型が望ましい。それぞれの地域の持ち味を生かした展開を期待している」と、エールを送る。 来春までに北海道、神奈川、愛知、岡山などで、同様のイベントが地元主導で予定されているという。台湾や韓国などアジアからの反響も大きく、現地開催をサポートしていく方針だ。小国さんは「2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時、内外からのゲストを、わたしたちの料理店でもてなしたい」と意気込む。 まちがえるかもしれないことが事前に分かっていたら、人はやさしくなれるのかもしれない。まちがっても大らかに受け止めて楽しみ、まちがえないように無理のない範囲内で手助けすることもできる。料理の注文から対話が生まれ、やがて交流や共生へつながっていく。認知症に限らず、さまざまなハンディを持つ人たちとの付き合い方を、社会も個々人も工夫していきたいものだ。詳しくは「注文をまちがえる料理店」の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)