『9ボーダー』『くる恋』『約束』『アンメット』 “記憶喪失”ドラマがなぜ求められるのか
『約束 ~16年目の真実~』
本作は刑事の桐生葵(中村アン)が、故郷の街で起こった連続殺人事件に挑むミステリードラマ。遺体の口にはビー玉が詰められていたが、同じ事件が葵が高校生だった16年前にもこの街で起こっていた。 当時は彼女の父親が連続殺人犯として逮捕されたのだが、再び事件が起きたことで、葵の同級生だった映像研究会の仲間たちが容疑者として浮上する。だが、16年前の事件の時に被害者の遺体を発見した時のショックで、葵は事件直前の記憶を失っており、彼女自身が殺人犯である可能性もゼロではない。 主人公が記憶喪失という設定は、サスペンスを盛り上げるシチュエーションとして最大の効果を発揮しており、ミステリードラマのアイデアとしては王道の見せ方だと言えるだろう。
『アンメット ある脳外科医の日記』
最後に、同じようにドラマを盛り上げる設定として記憶喪失を用いながらもユニークなアプローチとなっているのが、医療ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)である。 主人公の川内ミヤビ(杉咲花)は脳外科医だが、事故により1日で記憶がリセットされる記憶障害を発症しているため、朝起きると彼女は昨日書いた日記を読み返して、自分自身が置かれた状況を理解して病院に赴く。 彼女には事件以降の記憶が存在しない。不安定な状態なので看護助手として働いていたが、新しく赴任した脳外科医の三瓶友治(若葉竜也)と出会ったことで、脳外科医に復帰し、自身の記憶障害と向き合っていく。 彼女が事故に遭った理由は謎に包まれており、ミヤビの婚約者だったと語る三瓶の存在も含め、謎解きをめぐるサスペンスがドラマの推進力となっているのだが、まず何より記憶障害を抱えたミヤビに見えている世界を描くことに本作は尽力している。 医療ドラマとしては独特すぎる、張り詰めた空気が漂うストイックな映像に圧倒される。おそらく、ミヤビや脳に障害を抱えた患者たちには世界はこう見えているのだろう。映像表現のレベルで記憶喪失の不安を見事に可視化した稀有な作品である。
成馬零一