NHK『The Covers』制作の舞台裏 選曲へのこだわり…入念なリサーチも「1回の放送に1~2か月」
広島開催のフェスはNHKBSで29日午後10時30分から
著名なアーティストが名曲をカバーして視聴者を魅了するNHKの音楽番組『The Covers』(NHKBS木曜午後9時30分、BSP4K日曜午後10時50分、総合木曜午後10時※随時)。アーティストは時に意外な曲を歌い新鮮な感動を生み、名曲とともに視聴者に懐かしい思い出をよみがえらせてくれたりする。もちろん自身の曲を披露することも。2014年のレギュラー放送開始から今年で10周年を迎えた。長く愛されてきた要因は何か、舞台裏を制作統括・川村史世さんに聞いた。(取材・文=中野由喜) 【写真】「なかなかイケメン」「かっこいい」とファンも驚き 父から送られてきた白石萌歌の幼少期の写真 番組で披露される曲に選曲のセンスの良さを感じるといった声をよく耳にする。出演者と楽曲はどう決められているのだろう。 「季節感やゲストの方のタイミングなども意識しますが、番組の色みたいなことで言うと、特に立ち上げの時はカバーをやりそうにない方に出てもらいたいと思ってきました。この方がカバーするんだ、テレビに出るんだという意外な人に出ていただき、ただカバーするのではなくご自身を語る上で必要な曲を披露していただくことを意識しています。複数回出演してくださっている方には、たとえば男性には女性の曲をカバーしてみませんかとか、普段ロックを歌っている方には歌謡曲やバラードをとご相談することも。もちろんご本人から曲をご提案いただくこともあります」 番組作りのベースになったエピソードと選曲の姿勢も紹介してくれた。 「2013年にパイロット番組を放送しました。カバー曲を考えていく上でアーティストが少年時代にどんな曲を聴いて育ち、初めて買ったレコードは何かとか音楽的ルーツを掘り下げ、そのアーティストの内面、音楽性を含めて知っていきたいという思いで立ち上げた番組です。最初のゲストはロックアーティストの斉藤和義さんでした。どんな曲を披露してくだされば、より内面が見えるかというお話を斉藤さんのチームの皆さんとしました。そうしたらデビュー前に梓みちよさんの『二人でお酒を』を演奏していたとおっしゃいました。歌謡曲です。アーティストがどんな曲をカバーするかという時、ご本人が最初に音楽に触れたきっかけ、幼少期にどんな曲が世の中でヒットしていたかも調べ、それをもとに年表を作ったりします。まずはご本人を知ることから楽曲の提案を考え、何の曲を披露していただくかを一番大切に考え、打ち合わせを重ねています」 アーティストの音楽人生を掘り下げた上でカバー曲を提案する。リサーチの時間も含めると相当な時間と労力がかかるはず。収録時の様子も気になる。 「ケースバイケースですが1回の放送に1~2か月ほどでしょうか。大変ですが常に新たな発見や感動がありますから。番組でパフォーマンスされるカバーの多くは、スタジオで初めて歌われるもの。スタジオでアーティストが歌う第一声を聴いたときは本当に震えます。感動します。この方が、こういう声色で、こんなアレンジで歌うんだと。アーティストのカバー曲に向き合う熱さと緊張感はすごいです。楽曲の本家へのリスペクトもあるでしょうし、普段歌いなれた楽曲でもないので新鮮さと緊張感がともにある感じです。楽曲はこちらが提案しても最終的にはご本人が決めます。その責任感もとてもあると思います」 MCのリリー・フランキーの魅力も聞いた。 「番組の顔です。音楽を深く愛していらっしゃる方。アーティストにはもちろんですが、音楽全体へのリスペクトがあり、造詣が深くて素晴らしいです。台本もあってないようなもので、決まったことを聞く流れではないので、ナチュラルに人と向き合ってゲストの本当の思いを聞きだす姿がすてきです。その分、トークの収録時間は長いです(笑)。BS回は30分番組、総合回は45分番組ですが、倍の時間は取っています。長い時は2時間くらいでしょうか(笑)」 上白石萌歌の魅力も聞いた。 「リリーさんと同じく音楽が心から好きな方。生まれる前の曲もリスペクトしながら自身の言葉にしてお話してくださる。歌い手としてもとても魅力的です。ゲストの方は萌歌さんより年上の方がほとんどですが、その場で感じたことをナチュラルに伝えられる力も素晴らしいです」 放送では分からない裏話も聞いてみた。 「カバーされた側の方(原曲の歌手の方)がご覧くださり褒めていただいくことも。直接、番組に伝えてくださることもありますしSNSなどで発信してくださったり、カバーがきっかけでアーティスト同士がつながることも」 作り手としてのこだわりを聞いた。 「ウソがないということでしょうか。番組スタート当初から、無理にこちらの希望する曲を歌ってもらうことは絶対にしません。本当にその方の中にあるものに向きあう、ということを考え、ご出演いただくゲストに本当に歌いたい曲を歌ってもらうことです。何が語られ、どんな曲がどうカバーされるのか分からない、そんなドキドキ感が視聴者の皆さんにも伝わることを大事にしたいと思います」 番組ではスタジオを離れてフェスの形で放送することもある。今年は広島で開催され、NHKBSで29日午後10時30分から放送される。最後にフェスの形の魅力も聞いた。 「今回のフェスは広島ゆかりのゲストからカバーズならではのアーティストまで、ここでしか見られない熱いラインアップになっています。1曲目は世良公則さんと田島貴男さんのコラボで『あんたのバラード』で多いに盛り上がり、フェスの最後はLOVE PSYCHEDELICOさんによる『イマジン』でスタンディングオベーションでした。田村芽実さんは初出演でしたが、圧巻のパフォーマンスにゲストの皆さんも驚いていました。CHEMISTRYのお2人は意外な選曲で、新たな魅力があふれていました。デビュー40周年の菊池桃子さんも、レアな選曲でいま海外で注目されるラ・ムーのデビュー曲を。世良公則さん、田島貴男さんのパフォーマンスには会場が圧倒されているのを肌で感じました。その熱いライブがそのまま届いたらと願っています」
中野由喜