W杯に選ばれた澤にカズの教訓
ワールドカップのような大舞台に臨む上で、チームに経験豊富なベテランが必要なことは男子の代表の歴史が物語っている。カズの教訓である。 岡田武史監督のもとで悲願の初出場を果たした1998年のフランス大会では、直前にFW三浦知良を外したことが波紋を呼んだ。キャプテンのDF井原正巳に必要以上の精神的な負担がかかり、精彩を欠いたチームは3連敗でグループリーグ敗退を喫した。 フランス大会に臨んだ代表チームで、海外でプレーした経験をもつ選手は皆無だった。それだけに、大会後には「カズがいれば」という議論がわきあがった。 岡田監督も精神的なまとめ役の必要性を痛感したのだろう。2度目のワールドカップとなった南アフリカ大会では、GK川口能活をサプライズ的に招集。出場機会は訪れなかったものの、川口は監督と選手の橋渡し役を務めあげた。 トルシエジャパンがベスト16に進出した2002年日韓共催大会では、FW中山雅史とDF秋田豊の両ベテランがまとめ役を務めた。対照的にベテランを招集しなかったジーコジャパンとザックジャパンは、ワールドカップで期待を裏切る惨敗を喫している。 佐々木監督も澤にレギュラーを約束していない。なでしこジャパンを不在にしている間に宮間がボランチに転向。阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)が健在で、正確なキックを武器とする宇津木瑠美(モンペリエ)も台頭してきた状況は、澤がMVPと得点王を獲得した4年前とは明らかに変わってきている。 世界情勢に目を向ければ、4年の間になでしこジャパンの武器である組織的なサッカーを採り入れた欧米の列強国が躍進。フィジカル面で劣るなでしこジャパンが苦戦を強いられるのは必至で、前哨戦となったアルガルベカップでは格下だったはずのデンマークと躍進著しいフランスに苦杯をなめた。 チーム全体が自信を失いかけているからか。会見で佐々木監督は澤にこんな期待もかけた。 「小手先の上手さではなく、90分間の最後の最後まで集中して、惜しみなく体を張って戦う澤選手の姿勢はなでしこの姿勢でもある。それは少し臆している他の選手への模範になる。まだまだ彼女の背中を見て、学ぶことがある。いまの彼女の力は、なでしこジャパンに必要だということです」 精神的支柱として。背中で魂を語れる存在として。そして、既存のメンバーを脅かすライバルとして。 「内心ドキドキしていた。みんなにハグされて正直、泣きそうになった」 笑顔で選出の喜びを語った澤は3つの大役を背負いながら、男女を通じて史上初となる6大会連続のワールドカップへ向けて、心身のコンディションをさらに上げていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)