W杯に選ばれた澤にカズの教訓
なでしこジャパンが連覇をかけて臨む女子ワールドカップ・カナダ大会(6月6日開幕)に出場する代表メンバー23人が1日、日本サッカー協会から発表された。 記者会見場となった東京・文京区のJFAハウス1階のバーチャルスタジアムを埋めたメディアの関心は、ただ一点に注がれていた。昨年5月のAFC女子アジアカップを最後になでしこジャパンから遠ざかっている、MF澤穂希(INAC神戸レオネッサ)が招集されるか否か――。 ひな壇の中央に座ったなでしこジャパンの佐々木則夫監督が、GKから順に代表メンバーを読み上げていく。迎えた12人目。ポジションがMFに移った直後だった。 「背番号10 澤穂希」 カメラのシャッター音が無数に鳴り響き、民放テレビ局のアナウンサーが「澤選手が選ばれました」と生放送中の番組へ小声で一報を入れる。世間の関心の高さを物語るように、質疑応答では冒頭から4問連続で澤に関する質問が飛んだ。 佐々木監督自身は、3月のアルガルベカップで澤を復帰させるプランを描いていたという。最終的には昨年末に負傷した右ひざが癒えたばかりという状況を考慮して見送ったが、招集しない間も澤の代名詞である背番号『10』を空き番にして敬意を払ってきた。 まさに満を持して34歳のレジェンドをメンバーに加えた理由を、指揮官はよどみない口調で説明する。 「いま現在の所属チームにおけるパフォーマンス、90分間の集中力、そしてチーム内の誰よりも多く体を張ってスライディングをする意欲。戦えるチームを構成していく上では、澤選手の現在のパフォーマンスは問題ないということで選考しました」 3月下旬に開幕したなでしこリーグで、INAC神戸は無傷の5連勝で首位を走っている。原動力はボランチとして5試合すべてに先発フル出場している澤。4月26日に行われたASエルフェン埼玉戦ではアクロバティックなボレー弾を決めるなど、コンディションはすこぶる良好だ。 昨年は監督交代などでチームが低迷し、4連覇を逃したなかで澤のパフォーマンスも低迷。昨秋に行われたカナダ遠征で澤の招集を見送ったときには、佐々木監督はこんな注文をつけていた。 「クラブでのパフォーマンスをもうちょっと上げてほしい」 佐々木監督の期待に澤が見事に応えたことになるが、戦力的な理由だけで澤を加えたわけではない。指揮官はキャプテンを引き続きMF宮間あや(岡山湯郷Belle)に任せることを明かしたうえで、澤の存在に関してこう言及している。 「彼女に頼るということではなくて、ひとつのチームのなかに彼女というエキスが入ることによってパワーアップする。宮間を支えていけるだけの大きな存在にもなっていくでしょうし、いままでの活動や大会で右往左往したときに、彼女という要因が非常に重要になったのは明らかですから。ワールドカップも6回目ということになりますけど、もちろんピッチ内、外を含めたなかで総体的にチームの柱として頑張ってもらいたいと思っています」