写植の栄枯盛衰 一冊に 岩手・北上出身 阿部准教授(愛知淑徳大)刊行 サントリー学芸賞など輝く
北上市相去町出身で愛知淑徳大創造表現学部准教授の阿部卓也さん(46)が刊行した「杉浦康平と写植の時代 光学技術と日本語のデザイン」(慶應義塾大出版会)が、出版文化への寄与を顕彰する第77回毎日出版文化賞特別賞(文学・芸術部門)、独創的な研究、評論に贈られる第45回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)など四つの賞に輝いた。戦後グラフィックデザインの大家である杉浦さん(91)の足跡と、写真植字(写植)の栄枯盛衰を描いた一冊。膨大な資料と関係者への詳細な取材に基づき、写植と1世紀もの印刷・出版業界の歴史をひもといた傑作として高く評価された。 国内では明治以来、膨大な金属活字を用いる活版印刷が長く主流だったが、1920年代に写真光学の原理で印字する写植が登場。活版印刷の煩雑さを解消し、多様な書体の開発も容易にした。写植の歴史は手動機に始まり、70年代にはコンピューターを使った電算機も加わったが、20世紀の終わりにDTP(パソコンによる印刷物の制作)やデジタルフォントが主流になり、社会から消えた。 阿部さんは「写植はかつて出版やデザインの現場を支えた技術だったのに、あまりにも忘れられている」と考え、2014年ごろから資料集めや関係者への聞き取りを開始。成果を雑誌原稿や論文として発表し、少しずつ構想をまとめ約10年かけて一冊に仕上げた。