上村文乃がチェロ・リサイタル新シリーズを立ち上げ 「チェロは自分自身」
現代作曲家の作品が2曲ある。まず今年、イタリアで世界初演されたばかりの細川俊夫の「無伴奏チェロのための『黒田節』」を日本初演する。福岡の民謡「黒田節」を引用しており、祝いの席で演奏されたという。また、スティーヴ・ライヒの「チェロ・カウンターポイント」(2003年)がユニーク。アメリカの作曲家ライヒは1936年生まれ。少ない音の音型を繰り返すミニマルミュージックの先駆者。2006年に世界文化賞を受賞した。カウンターポイントとは複数の旋律を重ね合わせる対位法のこと。チェロ八重奏のバージョンとチェロとテープのバージョンがあり、今回、上村は7人分の演奏を事前に録音し、生演奏を重ねる。
「細川さんとお話ししたのがきっかけに『黒田節』を演奏することになりました。短い親しめる曲です。ライヒは10分ぐらいの曲です。テンポは安定しており、ビート感を大事にしています。シューベルトの音楽も知らない間に転調して知らない世界に連れて行ってくれます。変化を感じるのは同じです。テープですが、音楽に委ね、自分自身と対話をします。現代のコンテンポラリー作品をプログラムに入れることはプロとしては当然で、自分の中では自然なことです」
■300年の時を経て
最後はラフマニノフの叙情性たっぷりのチェロ・ソナタ。鬱から回復したラフマニノフが1901年に作曲した。初演のピアノは名手ラフマニノフ自身で、重厚なピアノ伴奏になっている。40分近くかかる大曲だ。上村はピアニストに松本和将を頼んだ。
「留学直前に東京文化会館でラフマニノフのチェロ・ソナタを弾きました。10年前とは解釈が変わっていると思います。いつ弾いても心からよいと思える作品です。古楽を勉強したことで作曲家と近くなれ、曲と親しくなれました。独りよがりでなく自分の心の赴くままに直球で表現する。そのために技術を学ぶのです」と話した。
時代も国もこれだけバラエティーに富んだプログラムは珍しい。バッハからライヒ、細川まで約300年の時を経る。その間、時代が受け入れたさまざまな音楽が生まれ、少数が古典として残った。上村のリサイタルは多様な音楽の面白さを実感できるだろう。
コンサートは来年1月25日午後2時から、東京・銀座の王子ホール。問い合わせは、ジャパン・アーツぴあコールセンター(0570・00・1212)。(江原和雄)