被害者はなぜ苦しみ続けるのか? アメリカで博士号を取得した心理士が説き明かす「トラウマのメカニズム」
何年も前に受けた性被害を告発する事案が増えています。人はなぜ、過去のつらい記憶から逃れられないのでしょうか。私たちを苦しめ、生きる妨げになる心の傷を「トラウマ」と呼びますが、なぜ心は傷つくのか、そしてなぜ心の傷が人生を混乱させるのか。米国で博士号を取得したカウンセラーが、著書『一点をボーッと見るだけ! 脳からトラウマを消す技術』(講談社刊)をもとに、知られざるトラウマのメカニズムを解説します。 【画像】死刑囚が「アイマスク」をするヤバすぎる理由
日常のトラウマは時間がたてば自然に癒えるもの
そもそもトラウマとは何でしょうか? たとえば、仕事上の心ないクレームや上司の叱責に傷ついてストレスを受けたとします。その結果、イライラしたり眠れなくなったりするなど、心身のストレス反応が生じてしまう。このような、日常よくあるストレスフルな出来事から生じた心の傷は「日常のトラウマ」と呼ばれ、時間がたつと癒えるものです。1週間、あるいは2週間もすれば気持ちの整理もついて、普通に仕事に取り組めるようになるはずです。 立ち直るまでに、本人は苦しい思いをするかもしれません。記憶にも残るでしょうし、ときどき思い出して、ちょっと落ち込む……なんてこともあるでしょう。でも、上司の叱責は過去の出来事であり、いま起こっているわけではありません。それがわかっているから、記憶に左右されることなく生活できるのです。 ただし、出来事がどんなに些細でも、人によってはそれが心に傷を残す場合がありますし、小さな傷も積み重なれば重傷になるため注意が必要です。たとえば中山和夫さん(会社員)のケースを見てみましょう。日常のストレスが積み重なり、すっかり追い詰められてしまった男性のケースです。
わかりやすい原因から生じる「単純なトラウマ」
また、人生のなかでは、体験した人が普通の日常生活を送れなくなるほど、衝撃的な出来事が起こる場合があります。そのような体験をすると、人の心は深く傷つき、強いストレス反応が出ます。そんな強いインパクトを持つ出来事の一例としては、次のようなものが挙げられます。 •凶悪事件(強盗、殺人など)の被害者になる •凶悪事件に巻き込まれる、あるいは目撃する •事故(交通事故など)にあう、目撃する •災害(台風、地震、津波など)にあう これらのほか、心の支え(資産や頼りにしていた人など)を一気に失ったり、大病と診断されたり、大手術を受けたりしたことがきっかけで深刻な心の傷を負う人もいます。こうした1回の、あるいは限られた・わかりやすい原因から生じたトラウマのことを「単純なトラウマ」と呼びます。 そして、トラウマによると思われる症状が長期に続くと、「PTSD」(心的外傷後ストレス障害)と診断される場合があります。一定数を超える症状が1ヵ月以上続くと該当するとされています。