難病への理解広がって 車の運転もやめた…痛みが続くCRPS 共生社会願う
両手がずっとピリピリと痛む。腕を下げているときは特にひどい。変色した手はむくんでこわばり、箸もうまくつかめない。車の運転もやめた。「不便です。何をするにも」。長崎県諫早市内の男性(35)が顔をゆがめた。5月、手足などに慢性的な痛みが続く難治性の複合性局所疼痛(とうつう)症候群(CRPS)と診断。「CRPSに限らず、健康に見えてもつらい思いをしている人たちがいる。難病や共生社会への理解が広がってほしい」と訴える。 ◎いまだに不明 2月末、雨でぬれた外階段で足を滑らせ、両腕を打撲。両手の異変に気づいたのは次の日ぐらいだったか。一向に良くなる気配がなく、家族の強い勧めで受診。さまざまな検査でも診断がつかず、3医療機関目の長崎大学病院でようやく確定診断に至った。 専門医学会は指針で、CRPSは組織損傷後に創傷が治癒した後も痛みが長引き、「一つの疾患というよりは病態」としている。発症は10万人当たり年間約5人ともいわれ、同病院総合診療科外来医長で助教の濵田航一郎医師は「当科での診療経験はほとんどなかった」と言う。 濵田医師によると、CRPSは患者によって症状が違い、病因や進行もさまざま。患者それぞれの痛み、腫れなどに対し、対症的に治療していく形になる。「何らかの外傷が契機になった、というのが多いような印象だが原因はいまだに不明とされている。男性についても、これが契機という明らかな受傷起点は見いだせていない。あくまで持論だが『よく分からない』というのが、この病気の特徴かもしれない」と話す。 ◎経済的な不安 男性の場合、手が発汗し、正座した後のようにしびれる。治療に専念するため休職。同病院や福岡大学病院などに通院し、血液の循環を良くする治療などを受けている。交通費も含め、多いときで月5万円を超える通院代は身体障害者手帳を取得できたことで軽減されたが、職場復帰の見通しは立たない。経済的な不安は募るばかりだ。 国は難病のうち、「国内の患者数が一定の人数(人口の0・1%程度)に達しない」などの要件を満たす疾患については、厚生労働相が審議会の意見を聞いて「指定難病」に認定。医療費助成の対象としている。国によると現在、341疾患。CRPSについても認定を求める動きはあるが、検討の俎上(そじょう)に載っていないのが現状だ。男性はCRPSへの理解が広がり、患者が安心して支援を受けられるよう指定を願っている。 県難病相談・支援センターによると、指定難病などの患者らから寄せられる相談件数は年間延べ約千件。「上司が病気に配慮してくれない」「力仕事ができないのに力仕事に回された」などの訴え、経済的悩みも多い。小林雄二センター長は「まだまだ難病に対する職場、社会の理解が進んでいない」と指摘する。 ◎ヘルプマーク 「早期の治療開始が早期の回復につながるかもしれない」。男性は自身の経験も踏まえ、体に異変を感じた場合は早めの受診を呼びかける。患者の立場になり心境も変化した。「困っている人に目を向けられるようになった」。今はCRPSと向き合って治療を続けていこうと気持ちを切り替え、愛用のバックには「ヘルプマーク」を付けている。外見では分かりにくい障害などがある人への配慮を求める目印。今まで存在さえ知らなかった。「このマークの認知度が高まればいい」。そう言って手元のヘルプマークを見詰めた。