「吸血鬼」と恐れられた400年前の謎の女性、相貌復元で現代に蘇る ポーランド
高貴なアウトサイダー
ゾシアの死亡時の年齢は18~20歳。脊椎(せきつい)の分析によれば、体調に問題があり、慢性的な頭痛や失神に悩まされていた可能性が高い、とポリンスキ氏は語る。 このほか、胸骨が変形していた可能性もある。おそらくこれが原因で胸部に目に見える腫瘍(しゅよう)ができ、痛みを引き起こしていた可能性があるという。ただ、胸部の腫瘍が死を招いたわけではなく、死因は分かってない。現在、詳細な医学分析が行われているところだ。 墓から見つかった繊細な絹の生地や金銀の金属糸は、洗練された頭飾りや帽子の装飾品だったとみられ、彼女の富貴な出自を示している。 遺骨のDNAや化学同位体から収集された情報を考慮すると、出身地はスカンジナビア半島南部、もしかしたらスウェーデンかもしれない。17世紀当時、ポーランドとスウェーデンは何度も戦争になっており、ゾシアは地域のアウトサイダーだった可能性もある。17世紀の欧州は「小氷期」と呼ばれる寒冷期でもあり、一部の地域では作物の不作や飢饉(ききん)が起きていた。
死者への恐れ
ポリンスキ氏によると、南京錠と鎌は鉄製だった。鉄は超自然現象に対する防御になると考えられていたが、南京錠と鎌が同時に遺体に装着されたわけではないという。 「当初、彼女は自然な体勢で棺(ひつぎ)に入れて埋葬されていた。頭は西側を向いた状態で枕に乗せられていて、つま先に南京錠が取り付けられていた」(ポリンスキ氏) だが、ゾシアの遺体の復活を恐れる人々にとって、南京錠の防御力は十分ではなかったようだ。「何らかの不幸か別の人物の死がきっかけで、彼らは墓を開く決断を下した」と、ポリンスキ氏は示唆する。 その際、誰かが遺体を乱暴に扱って背骨を折るか、曲げるかしたとみられる。この時点で、彼らは遺体をひっくり返したり墓から除去したりするのを諦め、代わりに喉の上に鎌を固定した。遺体の蘇(よみがえ)りを防ぐ目的だった。 この地域では17世紀当時、こうした形で墓を暴くのはそれほど珍しいことではなかった。不幸の原因は死者による超自然的な活動にあると考えられていたためだという。 「様々な出来事が死者のせいにされた。死者は病気や死を引き起こす、ある種の引き金だと考えられていた」(ポリンスキ氏)