<インド>SF映画のように ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
港町チェンナイの郊外にある米車会社フォードの工場を撮影する機会があった。正直なところ、ビジネスニュース関係の撮影は退屈なものが多いのだけれど、工場はきらいではない。子供の頃から工作が好きだったし、「ものづくり」の現場はやはり面白い。特に目新しい技術ではないのだろうが、僕にとっては初めてのロボットアームには驚かされた。溶接の火花を散らしながら、まるで生き物のようにそれぞれの仕事をこなしていく十数本の腕の柔軟な動きに、思わず見とれてしまう。同時に、ある種の薄気味悪さが背筋をよぎった。この生産ラインに人間の姿はなく、唯一の「生物」は段上でカメラを構える僕自身だけ。己の意思で自在に動いているかのようなロボットアームが、何かの異変で反乱をおこし、突然こちらに向かって振り上げられたら…。大袈裟ではなく、そんなことを本当に感じてしまったのだ。まるでなにか古いSF映画のシーンのように。
「ものづくり」とはいえ、そこに人間の血が感じられない作業には、どうやら僕も惹かれることはないようだと気付かされた。 (2012年4月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.