核使用の危機が迫るからこその受賞 ―被団協ノーベル平和賞の先に目指すべきもの
薄氷の上の軍拡ダンス
そもそも核抑止論とは、核兵器の存在を認め、人類自滅の導火線に何かのきっかけで火がつくやもしれない状態で放置することだ。核兵器がある限り、使われるリスクが付きまとう。そんな核抑止論に頼るのは、いつ割れるか分からない薄氷の上で軍拡のダンスを続けるようなものだ。いつかは氷が重みに耐えられなくなる。核抑止論の虚妄にとらわれていては、持続可能な平和は永遠に得られない。 被爆者の願う核兵器廃絶には、軍備増強をやめないロシアや中国、北朝鮮といった専制的な国の説得も欠かせない。険しい道のりだが、被爆者が元気なうちに核なき世界を実現させたい。被爆80年を目前にしてもなお道半ばだ。残された時間を思うと、焦る気持ちは抑えられない。だからこそ、「決して諦めない」との坪井さんの言葉を思い起こしたい。 人類の自滅か、核兵器廃絶か。広島、長崎の問いは、政治家だけではなく、私たち一人一人にも向けられている。 核と人類は共存できない―。被団協結成に参画し、長年、被爆者運動のシンボル的存在だった故森滝市郎広島大名誉教授の言葉が進むべき道を示してくれている。 後は行動するだけだ。
【Profile】
宮崎 智三 中国新聞社特別論説委員 : 1962年、神戸市生まれ。85年、京都大学文学部を卒業し、中国新聞社に入社。防長本社編集部長や編集局ヒロシマ平和メディアセンター長など歴任。論説主幹を経て、23年2月から特別論説委員。1999年の東海村臨界事故を検証し、原子力の商業利用に警鐘を鳴らす連載「被曝と人間」の取材や、2017年の科学ジャーナリスト大賞に選ばれた連載「グレーゾーン 低線量被曝の影響」のデスク役などを担当した。