弟と一度だけ酒を酌み交わした。父の笑顔が忘れられない。世論が高まれば政府も動く。そう信じている…北朝鮮拉致46年、市川健一さんに聞いた
鹿児島県日置市吹上浜で1978(昭和53)年、市川修一さん=当時(23)=と増元るみ子さん=同(24)=が北朝鮮に拉致されてから、12日で46年となった。家族の高齢化が進む中、日本政府は水面下で北朝鮮と接触しているとみられるが、目立った進展はない。市川さんの兄健一さん(79)=鹿屋市輝北=に、北朝鮮にいる家族への思いや日本政府への要望を聞いた。 【写真】〈関連〉拉致問題の主な経過表を見る
-県内各地で精力的に講演を続ける。 「急に悲しみがこみ上げてきて言葉に詰まることがある。泣かずにしっかり話そうと、いつも講演前には思うんだけど。私が学校から帰ると商店を営んでいた両親から面倒を見るよう頼まれて、修一をおぶって友達と遊んだこととか、いろいろな場面を思い出す」 -岸田文雄首相は自身直轄のハイレベルで協議を進めると繰り返している。 「政府は北朝鮮と水面下で接触していると思う。かつて、当時の総理に『国民の強い支持がなければなかなか動けない』と言われた。世論が高まれば政府も本気で動く。米国との連携も大切だ。米国が圧力をかけると北朝鮮は日本に近づいてくる」 「今年は自民党総裁選と米大統領選がある。誰がリーダーになっても党派を超えて真剣に行動してほしい」 -家族会は新たな運動方針を定めた。 「家族は高齢化が進んでいて時間がない。親世代が生きているうちに拉致被害者全員の一括帰国が実現すれば、北朝鮮に対する独自制裁の解除に反対しないという方針だ。こちらが折れる必要はないのだけれど、拉致問題は時間的な制約がある人権問題だということを分かってほしい」
-拉致問題解決を求める署名は今年6月30日までの累計で延べ1821万9830筆に達した。 「驚くべき数字だ。最も恐れているのは風化すること。私たちができるのは署名活動と講演。みなさんが関心を持ち続けてくれれば、外交を動かせるはずだ」 「昨年は初めて2人の中学生が自宅まで来て話を聞き、作文を書いたり、学校で発表したりしてくれた。2人の学校は講演にも呼んでくれた。若い人たちは素直に話を受け止め、許せないと言ってくれる。励ましになる」 -46年の時が経過した。 「修一と酒を酌み交わしたことが一度だけある。拉致の直前、父と3人で飲んだ。父の笑顔が忘れられない。修一とゆっくり話をしながら、ビールを一緒に飲みたい」
南日本新聞 | 鹿児島