進むデジタル防災 災害を「見える化」、和歌山県田辺市
地震や台風などの自然災害が相次ぐ中、防災分野で最先端のデジタル技術の活用が広がっている。その一つが、仮想空間に現実のまちを再現する「デジタルツイン」だ。和歌山県田辺市では約2年前に導入。デジタルツインを業務に活用している自治体は全国的にも珍しく、災害の状況把握や初動対応の迅速化に役立てている。 【平時の関係づくりを シニア災害ボランティア、和歌山県田辺市でシンポジウムのn記事はこちら】 デジタルツインは、高性能のドローンで撮影した画像データなどを基に、地形や建物など現実世界の「ツイン(双子)」をコンピューター上に作成。ネットワークを通じて共有し、さまざまな分析やシミュレーションに生かすことができる。 地上からの目視では確認が難しい場所の状況も詳しく把握することができ、データ上で距離や面積を測ることも可能。そのため、災害時には被害の規模を素早く推定し、復旧作業に取りかかるまでの時間を短縮することができるという。 今年5月、同市下三栖の市道で延長約60メートルにわたる地滑りが発生した際も、被害状況の把握にデジタルツインを活用した。発生直後から現場をドローンで撮影。地滑り範囲の延長や高さ、崩落面積を把握し、応急復旧にかかる概算工事費などを算出した。 従来だと3、4人で現場に入り、丸1日かけて行っていた作業を、数時間で終えることができたという。発生の約10日後には補正予算を組み、応急復旧工事に取りかかることができた。 市土木課の担当者は「初動にかかる時間と労力を大幅に短縮することができた上に、より正確かつ安全に作業することができた」と話す。 市はドローンを11台保有しており、本庁舎や消防のほか、4行政局にも配備。レーザー測量が可能なものや、赤外線カメラ付きもある。 被害状況の把握のほかにも、平時から津波や河川氾濫による浸水をシミュレーションしたり、仮設住宅の配置計画に役立てたりとさまざまな場面で使うことができ、防災訓練でも積極的に活用している。 市建築課の担当者は「デジタルツインを生かすことで、『現場』を市役所に持ってきて、庁内や関係機関とも共有することができる。デジタルの良さを生かしながら、さらに活用の場を広げていきたい」と話している。
紀伊民報