【トップインタビュー】大阪取引所・社長の横山隆介さん
─その立会場も時代と共に取引の電子化が進み、1999年には姿を消した。 往時を振り返ると少し寂しさもある。最盛期には取引所周辺に数十社の証券会社がひしめき合っていたが、今は数えるほどになった。ただ、大阪取引所は今も北浜交差点に立ち続けている。シンボリックな円形の石造りの建物は昔のままの形だ。 ─昔の場立ちの話に戻るが、時にけが人が出るほど激しかったと聞く。 確かにそういう時もあった。例えば、トヨタ自動車の好決算のニュースが飛び込んだとすると、みんながトヨタ株を買おうとする。だが、当時はインターネット注文でないから、お客さんはまず証券会社に電話をして、そこから立会場にいる市場部員に買いの情報を入れる流れになる。立ち会い取引は時間優先だから、先に帳面に注文を書いてもらおうと市場部員がわーっと押し合いやって来る。このため、証券会社は「声が大きい人」「背が高い人(手が長いため)」「体格がいい人」で市場部員をそろえていた。一説にはバスケットボール出身者を市場部員として採用する証券会社もあったとか(笑)。 ─今はその取引もコンピューターになった。 そう。でも仕組みは全く同じなので、同じような争いもある。コンピューターの処理能力を高めた高速取引業者がいい例だ。例えば、株価は企業業績だけに限らず、社会的なニュースにも反応する。米大統領選でトランプ氏が勝利したときや、衆院選で自公が過半数割れとなったときなども大きく値動きした。こうしたニュースをどう解釈し、取引所にいち早く注文を出す構図はある意味、昔と変わらない。 ─市場には1日にどのくらいの注文が入るのか。 帳面の時代と比べると取引量は飛躍的に増え、約1億件の注文が来る。市場は世界中の投資家らのさまざまな思惑や考えの集積した姿。トランプ氏が当選して株価は上がったが、その中には株は下がると予想した人もいる。その最大公約数が価格となって現れる。 ─時々、良い決算内容なのに株価を下げることもあるが。 それは「思ったより良くない」「もっと期待していた」という表れだったりする。期待値で売買している部分があるので、今日よりも明日、将来を期待して買っている。 ─大阪取引所ならではの取り組みはあるか。 ちょっと専門的になるが、一つは金利系の商品。デリバティブ(金融派生商品)の中でも国債の先物取引に力を入れている。 大阪では昔から日本国債先物(JGB)が主力商品の一つだったが、アベノミクス以降の低金利政策で、日本は長く金利のない世界になっていた。それが昨年5月以降、そろそろ金利が動いてくるだろうと考え、新商品を始めた。 金利といえば個人には関係ないと思われるかもしれないが、金利が上がれば銀行の預金利息が増えたり、住宅ローンの返済額が増えたりするから無関係ではない。銀行などはこうした金利系の先物取引を使って価格変動の影響を避けている。 ─もう一つの推し商品「かぶオプ」についても教えてほしい。 個別の株式を対象にしたオプション取引だ。オプション取引と聞くと、「難しい」「わからない」といわれるかもしれないが、簡単に言えば少しのリスクで収益を上乗せできるというものだ。新NISAがはじまり、株保有の裾野は広がりつつある。保有している株式に対し、収益をうまく上乗せできるのが「かぶオプ」だ。興味があればインターネットで「JPXマネ部」を検索してほしい。わかりやすく解説したページがある。 ─大阪エリアのスタートアップも支援しているようだ。 一昨年から「スタートアップ成長支援塾」を開講している。資金調達や株式上場、ガバナンス体制強化による企業価値向上などについて講義し、大阪から上場する企業を1社でも増やしたいと思っている。 ─最近、SNSでの投資詐欺も起きている。 そう、注意を呼びかけたい。取引所はあくまでもインフラを提供する立場なので、取引所自身がSNSを通じてお金を集めたり、投資のアドバイスをすることは一切ない。新NISAが始まり、投資が盛り上がっているだけに、くれぐれも用心してほしい。 最後に。大阪は国際金融都市を目指しており、私も委員になっている。来年は大阪・関西万博もあり、世界中から注目も集まる。この機会に万博の関連イベントとして、セミナーなども一層力を入れてやっていきたい。