黒木華&中村蒼、“アイミタガイ”現象に納得!「誰かの行為がまわりまわって自分の元に戻ってくることは結構ある」「絶妙な意味」
2013年に出版された中條ていの同名小説を映画化した『アイミタガイ』(公開中)。ウェディングプランナーとして働く梓のもとに、ある日突然届いたのは親友である叶海が不慮の事故で命を落としたという知らせだった。交際相手の澄人との結婚にも踏みだせず、生前の叶海と交わしていたトーク画面に、日々の何気ないメッセージを変わらず送り続ける梓。なぜ彼女は、返事が来ないとわかりながら、亡くなった親友にメッセージを送り続けたのか?見逃してしまいそうな微かなふれあいがつながり、大きな輪になっていく群像劇が映しだされる。 【写真を見る】梓&澄人が映画から飛び出してきたみたい!カップルを演じた黒木華&中村蒼 梓を演じるのは黒木華。黒木は本作で主題歌も担当。荒木一郎が作詞・作曲した往年の名曲「夜明けのマイウェイ」をカバー。エンドロールで流れる柔らかく温もりに満ちた歌声は、物語の余韻を包み込んでいる。梓の恋人、澄人役は中村蒼。監督は草野翔吾が務めている。本作は小説「アイミタガイ」を原作に、『台風家族』(19)で監督を務めた市井昌秀が脚本の骨組みを制作。2020年に亡くなった『ツレがうつになりまして。』(11)の佐々部清監督が生前に温めていた本企画を、草野が受け継ぐ形で完成した。 MOVIE WALKER PRESSでは、いつも一番の味方でいてくれた親友との別れを受け入れられず、立ち止まってしまう主人公の梓を演じた黒木と、彼女を支えるちょっと間は悪いが心優しい恋人の澄人役の中村にインタビュー。共演の印象や撮影の思い出、見知らぬ人間同士が助け合う心=“相身互い”エピソード、主題歌への想いについて語ってもらった。 ■「いろいろと皆さんに助けていただいて、なんとか形になりました」(黒木) ――エンドロールで流れる主題歌は、語りかけるように歌ってほしいというオーダーがあったとのことですが、実際に歌ってみていかがでしたか? 黒木「難しかったです。カラオケくらいでしか歌うことなんてないですし。いままで歌う役とかはあっても、主題歌をやるというのはもちろんなかったので、『え?大丈夫ですかね?』みたいな感じでした(笑)。歌唱指導の先生から『黒木さんは役者なので、音も大事だけど、言葉、メッセージを意識したほうが歌いやすいのでは?』とアドバイスをいただいてから、すごくやりやすくなって。いろいろと皆さんに助けていただいて、なんとか形になりました」 ――映画の最後に流れる楽曲。情報を入れずに映画を観たのですが、声も楽曲も映画のために書き下ろされたように馴染んでいました。 黒木「ありがとうございます。恐縮です(笑)。歌詞も梓とリンクするところも多かったです。こんな機会はなかなかないので、やってよかったなと思っています」 中村「僕も黒木さんが歌っていることを知らないで映画を観ました。声は似ているけれど、まさか…と思ったら、最後に黒木さんのお名前が出てきて。すごく驚きました。こんなことまでできちゃうんだって」 黒木「やめてくださいよ、恥ずかしい…」 ――「こんなことまでできちゃうんだ」というのも含めて(笑)、共演の感想を教えてください。 黒木「澄人という名前のように、中村さん自身も本当に透き通っているというか(笑)。澄んだ方というのが最初の印象でした。スッとその場にいてくださる役者さんで、相手を緊張をさせない方。普段もとてもフラットな方で、澄人を作り込んでいる感じもしなくて。梓として一緒にいるシーンが多かったのですが、おもしろいなって思いながらお芝居していました」 中村「黒木さんと初めてご一緒させてもらって、すごく光栄でしたし、最初はとても緊張していました。実際にお芝居をして思ったのは、あの手この手でいろいろ加えてというよりは、いろいろなものを削ぎ落とすことで、すごく豊かな表現をする方だなと。そんなことを肌で感じながらお芝居をしていました」 ――梓、澄人というキャラクターについてはどのように感じましたか? 黒木「すごく身近に感じられる役でした。どんな人にも大小それぞれだけど、つらい出来事があったりするじゃないですか。全部話せない人もいるし、人に伝えるのが苦手な人もいる。私も人に頼るのはそんなに得意なほうではないし、年齢も近いこともあって、結婚や家族、仕事や人生について考えることやわかることも多くて。どこにでもいる共感性の高い役だと思いました」 中村「澄人は、劇中でも言われているように、ちょっと抜けていてどこかタイミングの悪い人間です(笑)。人生にとても大きな出来事が起きた梓には、澄人の日常の悩みや小さな想いってなかなか言いづらくなると思うんです。その気持ちを抑えつつ、梓がどうやったら前を向いてくれるのかを真剣に考え、問題にしっかり向き合う姿は誇らしいと思いました。腫れ物に触るかのようにもしないし、逃げることもしない。だからこそ、梓も澄人との未来を描いて、最終的に一歩前に踏みだすことを考えてくれるようになったのだと思います。一人の人間としてすごく尊敬しています」 ――思い出に残っているシーンはありますか? 黒木「いっぱいありますね、どれかな」 中村「最後のほうに出てくる、梓が澄人に体を預けるシーンかな」 黒木「寄りかかるシーン!」 中村「監督がカメラを覗きながら、もうちょっと離れたところから(倒れてみて!)って言うから、黒木さんがどんどん離れていって…。そんなに離れて僕のほうに背中を向けたまま倒れ込んでくるのって、大丈夫かな?って思いました」 黒木「このくらいならいけるかな、みたいな感じでした」 中村「すごく男前な感じで、スッと後ろ向きで倒れてきて(笑)」 黒木「それは多分、信頼していたからイケるって思ったのかと(笑)。私は、小銭を落とすシーンとか、ちょっとしたもので澄人の人柄が見えるのがなんかいいなと思っていました。そういう何気ないシーンって塩梅が難しいじゃないですか。最初に出てくる突っ張り棒のシーンも監督が『これは絶対にやりたい』と。こんなちっちゃいところから物語が始まってつながることが、なんか意外だったらしくて。とても小さなことだけど、こういう澄人の抜けたところが梓の拠り所になっているというのを、見ていてもやっていても感じることができました。何気ないステキなシーンはたくさんありますね」 ――ちょっぴり間が悪い、抜けているところがありつつも、火事のシーンでは頼り甲斐のある姿を見せるところもあって。 中村「たくましいシーンでしたよね」 黒木「煙とかもすごかったので、結構危ないシーンでした」 中村「煙、結構すごかったですよね」 黒木「『みんな大丈夫?』とお互いに気にし合いながらの撮影でした」 ■「いまはあまり使われていない、馴染みのない言葉だけど、すごくステキな言葉だと思いました」(中村) ――映画のタイトルにもなっている、“相身互い”の意味にも「なるほど」と。お2人はこの言葉はご存知でしたか? 黒木「聞いたことなかったです」 中村「僕もなかったです」 黒木「最初に見た時はカタカナで書かれていたので、まずどういう読み方をするんだろう?というのが第一印象でした。どこで区切って、どういう意味のある言葉なのか、まったく想像ができませんでした」 ――お2人は知らない言葉に出会った時、すぐに調べたりするタイプですか?今回は演じることもあって、脚本や原作で読んで知ろうという感じだったのでしょうか? 黒木「普段の読書とかであれば調べます。今回は、まず脚本を読んでみようと思いました。読んだことで、だからこのタイトルなんだなってすごく納得できたというか。カタカナであることにも意味があるのかなとか、いろいろな想いを感じることができました」 中村「僕も最初に聞いた時は、どういう漢字で書くのかなって思って。原作を読んでから脚本を読んだので、脚本を読む時には言葉の意味は知った状態でしたが、『なるほど』という感じで読み進めました。いまはあまり使われていない、馴染みのない言葉だけど、すごくステキな言葉だと思いました」 ――“相身互い”という言葉の意味を知って、どのように感じましたか? 中村「絶妙な意味だなと。助け合いというのもちょっと違う。劇中で祖母役の風吹ジュンさんがおっしゃっていたように、見返りを求めないことでもある。意味ははっきりしているけれど、(必ず自分のもとへ巡ってくる保証はないという)どこか曖昧な感じがすごくいいなと思いました」 黒木「私は、この現象に言葉があったんだというのが最初の感想でした。人って一人ではなにもできないけれど、どこかでなにかがつながっている。誰かの行為がまわりまわって自分の元に戻ってくることは結構あると思っていて。それが“相身互い”ってことだったのかと。知らないところで自分の作品が誰かに影響していたり、逆に誰かの感想が巡り巡って私の元に届いて力になったりすることもあります。知らないところで関わっていたというのは、作品を通して以外でもよくあることだかから、この現象に言葉があったことを知って、すごくスッキリしました(笑)」 ■「草野監督だから温かいものになったし、バトンもつながって形になった」(黒木) ――お2人の“相身互い”エピソードを伺おうと思っていましたが、役者さんであれば、作品を通してというのがありますね。 黒木「SNSなどを見ていると、自分がまったく知らない人たちが自分のことを知っていることもあったりするし、逆に会ったこともない人たちのおすすめの映画を知ることができたりもします。面と向かってではない、知らないところで起こっている現象をこんな小さなもの(スマホをイメージする仕草で)で知れるんだ、みたいな感じが最近はすごくおもしろくて。いろいろな人がいろいろな場所で生きているんだなと思って楽しんでいます」 中村「実際に自分の作品が影響したという話を直接聞いた経験はあまりないので、実感したことはあまりないかな。でも、だからこそ、実はただすれ違っているだけの人とかでも、もしかしたら自分に影響しているのかも…なんて考えたりもしました。日常生活のいろいろなものにそういった現象がある。気づいていないけれど、自分が普段すごく頼りにしているものを作っている人がいる。日常にはそういうことがきっとあふれているだろうなって改めて思いました」 ――本作は市井監督、佐々部監督、草野監督の3人のバトンが受け継がれて実現したもの。“つながる”というのは作品のテーマでもあります。テーマも含めて現場で草野監督とはどんなお話をしましたか? 中村「僕からは佐々部監督と『東京難民』でご一緒させてもらった時のお話もしましたし、この映画がどうやって草野監督にたどり着いたのかというお話も聞きました。本当にこの映画の作りそのものが、いろいろな人の想いがつながってできたことを、草野監督を通して知ることができました。演出に関しては、草野監督はあまり細かいことは言わないという印象があります」 黒木「細かい指示はあまりせず、気持ちの揺れ動き、演じている役者の気持ちを大事にしてくださる方という印象が非常にあります。あと、すごく楽しんで撮影をしている方(笑)。監督がモニターを見つめてニコニコしていると、『あ、いまのはよかったんだな』っていうのがわかるんです。そんな監督の姿を見てステキな方だと思ったし、そういう方だから撮れる映画だとも思いました。草野監督だから温かいものになったし、バトンもつながって形になった。とても大変なことだったと思うけれど、ご一緒できてよかったです」 ――三重県桑名での撮影はいかがでしたか?梓の祖母の家や電車などもすごくかわいらしいものが多くて、観ていて和みました。 中村「やっぱり鉄道かな。赤い電車での撮影はすごく思い出深いです。会議室で事前にみんなでパイプ椅子を並べてシミュレーションしたのも楽しかったです」 黒木「会議室で、やったね(笑)」 中村「実際に動いている電車なので、撮影時間が限られているなかで、みんなで工夫しながらやったことがすごく思い出に残っています」 黒木「私は商店街が好きなので、思い出深いです。中條先生も『すごく懐かしい!』とおっしゃるぐらいの印象的な商店街を、スタッフさんが一生懸命作ってくださって。いまは閉じてしまっている場所ですが、すごくステキな雰囲気のシーンになりました。あの場所に行かないとできないものだと思いましたね。あとは…、桑名といえばやっぱりハマグリ!ということで食べました(笑)。桑名での撮影中は、差し入れもたくさんいただいて。安永餅(やすながもち)、おいしかったです」 中村「おまんじゅうを薄くのばしたような平べったいお餅。いつも置いてあったので、僕もよく食べました」 黒木「桑名の名物なので、ぜひ!」 取材・文/タナカシノブ