「引っ込み思案な子」を心配する親に伝えたい、アメリカの内向的な弁護士の話
「内向型」が短所ではないと教えてくれる弁護士の話
精神医学や心理学の世界で研究されていた内向型が、一般的に広く知られるようになったのは、2012年にスーザン・ケインの『内向型人間の時代─社会を変える静かな人の力』(講談社2013)が世界的なベストセラーになったことがきっかけです。 ケインは、ハーバード・ロー・スクール出身の弁護士で、自分の内向型の性質が短所ではなく長所であると考えました。 アメリカ人といえば外向的で社交的なイメージがありますが、ケインによれば、それは工業化や都市化といった社会の変化によってもたらされたものでした。小さなコミュニティで暮らしているときと違い、大勢の見知らぬ人たちの集まりの中で生きるためには、自分から積極的に他者に働きかける外向性が必要です。 そして、その外向性が社会的・経済的な成功を左右するようになりました。そのうち内向性は、残念な性格と病的な性格の中間で克服すべき課題であるとされ、内向型の人は外向性を身につける努力を強いられるようになりました。 ケインも、自分の内向型の性格を恥じていたと書いています。ハーバード大学で法律を修め、弁護士として働くようになっても自分は静かすぎて消極的で、思慮深すぎると考えて自信を持つことができませんでした。 しかし、自分を高く評価してくれる顧客に出会ったことを通じて、次第に内向型の性質は短所ではないことに気づきます。ケインの主張は、同様の悩みを抱えていた人々から熱狂的に受け入れられました。
内向型には内向型の得意分野がある
日本などのアジア諸国は、欧米と比べると内向型の国民であるといわれます。日本では自己主張より調和や協調性が大切にされ、ことわざの「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」のように立派な人ほど謙虚であるという価値観があります。 また、日本文化には「わび・さび」のように質素さや静けさ、余白を味わう性質があり、これらはどれも内向型に親和的な文化です。日本人の内向性は、海外交流の場面でもよく指摘されてきました。言葉や文化の違いから遠慮がちになるため、日本人は「シャイ」と言われることが多いですよね。 そういう事情もあり、国際交流は外国語やコミュニケーションが得意な人にお任せする時代もありました。しかし、インターネットの普及とともに人・物・経済のボーダーレス化が進み、今では誰もが臆せずに国際交流できることが必要になっています。 その結果、アメリカがかつて経験したように、日本でも外向型の性質が社会的成功のカギであるという価値観のシフトが生まれました。コミュニケーションやプレゼンテーションが必須技能とされ、大人のみならず子どもの教育にも取り入れられるようになったのです。 知らない人とのコミュニケーションやプレゼンテーションは、外向型の子どもたちのほうが得意な分野なので、内向型の子どもの子育てに不安が生じやすくなります。 しかし幸運なことに、わたしたちはケインらから学ぶことができます。内向型・外向型、どちらもそれぞれに得意と不得意があり、どちらかが優れている・成功するわけではないのです。
吉田美智子(臨床心理士)