「踊る大捜査線」本広克行、再始動は一度断った 『室井慎次』監督を引き受けた理由
男のあこがれが詰まった室井の生活
そもそも、スーツを脱ぎ、故郷・秋田で子供たちと暮らす室井を撮ることに、本広監督は抵抗なかったのか。「ありましたよ。雪国を撮るのも苦手だし、難しいなと思いました。でも、新しいキャラクターも入ってきたし、子供と接する室井さんという疑似家族の話なら、笑いあり涙ありというのができると思いました」 室井の生活を描くのは楽しかったという。「定年前に退職したとはいえ、室井さんは官僚だったのでそれなりにもらっていたはずだから、豊かな生活をしてると思うんです。車だって、ふつうは軽トラなのに、ダットラ(=ダットサントラック)ですからね。自分の畑でできる作物で子供たちを育てて、バルコニーで星を見ながらロッキングチェアに揺られ、ゆったりと好きなお酒を飲む時間がある。ある意味、これは男の人のあこがれです」と声を弾ませる。
「お酒は、亀山さんが好きな『厚岸(あっけし)』というウイスキーのブランドの方々が、ラベルまで特別に作ってくださって。ガレージは、クリント・イーストウッド監督・主演の映画『グラン・トリノ』(2008)みたいに、道具がピシッとそろってる、男の子の大好きなヤツをやらせてもらいました。ロッキングチェアは『さすがに室井さんでもそこまでは作らないだろう』ということで、通販で(笑)」と明かす。さらに、室井が猟銃免許を友人に誘われて取ったという劇中設定も「そんな友人、いたのかなって(笑)。そういうのを考えるのも演出の仕事なんです」と笑った。
室井のきりたんぽ作り、柳葉の実体験が元だった
室井一家が住む池のほとりに佇む家も印象的だ。「ジャン・レノの映画『ラスト・バレット』(2020)で、ああいう小屋が出てくるんです。すごくいいなって、そういう家を制作部に探してもらって。雪が降って緑もあるロケーションで、スタッフや役者さんたちの控室もないといけない。すごく難しかったですけど、新潟で見つかりました。バルコニーとか作業小屋とかは、美術で作っています。住んでる方たちは撮影の4か月間、ホテルに移っていただきました」と紹介。囲炉裏などの室内はセットで、「CGの技術が進歩して、窓外は合成なんですよ。ぜんぜんそうは見えないでしょ?」とうれしそうにアピールした。 食にもこだわった。室井がきりたんぽを自ら作るシーンは、台本にはなかったのだという。「あれは保存食で、柳葉さんもご自分で作られていたそうです。なので、それをやってくださいとお願いしました」とのこと。飼い犬の秋田犬・シンペイが必ず室井たちと同じタイミングでご飯を食べるのは「家族の一員ということです。生活を描くうえで、食はすごい大事ですよね」と説明。室井が家の掃除中に食べていたカップラーメンは「踊る」お馴染みの「キムチラーメン」だが、それには仕掛けがあるようで、「『室井慎次 生き続ける者』で正解が出てきます」とニヤリと笑った。