ジェームズ・ボンドが選ぶにはワケがある! アストンマーティンの最新DB12【試乗記】
インテリアはセミアニリンレザーをふんだんに用い、またセンターコンソールパネルにはカーボン、シフトセレクターにはレザー、そしてダイヤル類にはリアルな金属を用いるなど、単にゴージャスなだけでなく、本物志向であることが伝わってくる。 クリスタル製のエンジンスタート/ストップボタンを押すと瞬時にV8ツインターボユニットが目覚める。いまどき500PS超のスポーツカーは4WDを採用するのが一般的だが、アストンマーティンは680PS/800Nmというハイスペックに対してあえて2WD、しかも後輪駆動を採用している。 それを担保する最新技術として、アダプティブダンパーやDBモデル初の電子制御式LSD(E-diff)の採用がある。フロントミッドシップ+トランスアクスルで前後重量配分は48:52を実現するなど基本的なバランスのよさを前提に、ハイテク制御を組み合わせこのハイパワーな後輪駆動車のトラクション性能をしっかりと確保しているというわけだ。 最初はいささか緊張しながらまずは「GTモード」で走りだす。次第になれてくるとコーナーからの脱出で少し強めにアクセルペダルを踏んでみるもしっかりと制御が機能し無用なスライドなどは起きない。「スポーツモード」に切り替えてみると、ステアリングやアクセルペダルへの入力に対して反応がよりソリッドになる。 V8エンジンからは、なみなみとトルクが湧き出し、アクセル操作に対して意のままに反応する。その気になれば凄まじい加速感も味わえる。リラックスしながらツーリングを楽しむもよし、とびっきりスポーティな走りを楽しむもよし、想像していた以上に懐の深さを感じた。 遅れて発表されたオープンモデルである「DB12ヴォランテ」にも試乗したが、ソフトトップの形状などスタイリングの良さは秀逸。ハードトップではなく、あえてソフトトップを選んでいるのもやはり本物のラグジュアリィカーたるゆえんだ(ロールスロイスもベントレーもオープン仕様はソフトトップを採用するのが通例)。 いくらスポーツカーといえどもこれほどルーフを開けても閉めても絵になるモデルはそう多くない。8層構造になっているというソフトトップはもちろん遮音性にも優れる。50km/hまでであれば走行中も操作可能で約14秒で開き16秒で閉じる。オープンモデルにありがちなクーペに対するボディ剛性の低下も一般道を走行しているぶんには微塵も感じない。エレガントさでいえばクーペにもまさる。 しかし、ブランドが自ら“スーパーツアラー”というのも頷ける気がする。ニュルブルクリンク北コースでタイムを削ることに猪突猛進するスポーツカーとは一線を画した世界にいる。美しく、気高く、何にも似ていないスーパーな存在。アストンマーティンDBシリーズは1940年代の初代からいまも変わることなく、そうあり続けているのだ。
TEXT=藤野太一