映画ファン必見! パイロットフィルムだけを集めた激レアな映画祭が誕生、発起人に聞いた開催の背景
パイロットフィルムとは、映画や番組の本制作前にテストとして制作される映像のこと。普段は一般向けに公開されることが少ない、いわば“幻”のようなこれらの作品が、「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」で特別に上映される。12月14日(土)に渋谷シネクイントで20作品が限定公開される本イベントに先駆け、発起人として企画を手掛けた川村真司と栗林和明にそのコンセプトや思いを聞いた。 【写真を見る】激レア! 映画ファン必見の「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」上映作品一覧 パイロットフィルムの役割と、込められた想い ――パイロットフィルムを上映するフェスが行われるとのことですが、そもそもなぜパイロットフィルムはつくられるのでしょうか? 川村真司(以下、川村):パイロットフィルムというのは、いわば映画のプロトタイプのようなもので、海外では「プルーフ・オブ・コンセプト」と呼ばれています。製作者がこれをつくるかどうかはケースバイケースですが、映像表現として前例のないものや新しいものをつくりたいときに、最初の“灯火”としてつくることが多いと思います。誰もつくったことがない映像だと、製作者自身もその映像がうまく動くかどうか、見栄えが良いか、確信を持てません。(自信が原案・脚本・監督を務める)「HIDARI」のパイロットフィルムをつくった理由に近いのですが、「コマ撮りで木彫りでアニメ的なアクション」と言葉で説明されても、誰も想像がつかないですよね。僕らがイメージできていなかったら、制作費を出してくれるスポンサーはもっとわからない。なので、パイロットフィルムという“原液”をつくることで、出資者やパートナーとなるプロダクションが面白いと思ってくれて、仲間が集まってくるのではないかなと思います。 栗林和明(以下、栗林):既存のシステムに乗らないときほど、つくった方がいいですよね。例えば、その映画に有名な原作があって、有名な俳優さんが主役だったら、ある程度ヒットが狙えると思うし、パイロットフィルムは必要ない。でも今までにない面白さや新しさを伝えるためには、どうしてもその証明となる足がかりを作らないと、誰も賛同してくれないと思うんです。 ――お二人とも、ご自身の作品でパイロットフィルムを公開されています。それぞれどういった想いでパイロットフィルムを制作したのでしょうか? 栗林:先ほどお話しした、外部に対してのアプローチも大事なのですが、その一方で製作陣に対しても良い影響を与えてくれます。僕にとっては、「この船はしっかり浮くし、進むよ。だからみんな乗ってね」ということを証明するためのものだったんです。 今まで僕は監督をやったことがないので、クリエイターたちは普通「本当についていっていいのかな」と、疑問に思うじゃないですか。でもかっこいい映像で証明すれば、内部の方々にも信じてもらえる材料になる。たった60秒の映像でも、それだけでもいろいろな可能性が生まれたり、いろいろな人が反応してくれたら、「何かすごいことになるかも」と思うはず。それが90分になったら、とんでもないことが起こるぞってワクワクしてもらえると思うんです。 川村:『HIDARI』は、コマ撮りという手法を採用しているんですけど、これはグローバルで見てもめちゃくちゃニッチなジャンル。最近は温故知新的な感じでウェス・アンダーソンの作品とか、デルトロのピノキオとかでちょっとずつ再認識されてきてると思うんですけど、やっぱり業界の中では古いと思われがちで。当初からリスキーなジャンルで勝負しているので、パイロットフィルムの段階からつくり込んで、あっと言わせないと勝てないと思いました。 だからパイロットフィルムといえど高いクオリティで制作する必要がありました。それにYouTubeで公開して数百万回の再生がないと、そもそもスタートラインに立つことができない。再生数があれば多くの人が興味を持ってくれている証になって、大きなパートナーを集めることにも役立ってくれる。だからすごくこだわってつくったのですが、副産物として、「これ以上クオリティを求めたら、クリエイターへの負担が大きすぎる」という、超えちゃいけないラインもわかりました(笑)。 ――「渋谷パイロットフェスティバル」の開催は、パイロットフィルムに対するお二人の想いがリンクしたからなのでしょうか。 川村:そうですね。『HIDARI』も『KILLTUBE』も、新しい映画のつくり方を世の中に提案したいという意味で、志は同じでした。その上で、お互い映画化が実現したらいいねって雑談をしていた時に「僕たちがつくっているようなパイロットフィルムだけを集めた映画祭があったら面白いんじゃない?」という話になって。お互い映画化に向けてプロモーションが大切な時期だったし、それならパイロットフィルムをもっと集めて、クリエイターの初期衝動である熱量をたくさん見せられたら、すごく盛り上がると思ったんです。 栗林:見据えていた方向性が同じだったからか、1時間半くらいの最初の打ち合わせで内容が固まっていきましたよね。 ――パイロットフィルムは、一般の人には公開されていないものが多いと聞きました。そんな映像を一般公開しようとする取り組みはハードルが高かったのではないでしょうか。 川村:まさにその通りで、許諾を取るためのルートが複雑すぎて……。でも、だからこそ観てみたい! と思ったし、きっと一般公開もされておらず、映画化も実現しなかった幻の作品がたくさんあるんじゃないかと。海外の作品で言うと、ザックスナイダーの『300』や、同じコマ撮りの『マルセル 靴をはいた小さな貝』なども上映したかったんですが、コネクションが見つけられず難しいなと。そこで日本の作品にフォーカスして、奇跡的にOKをいただけた20作品を上映できることになりました。 栗林:実際に集めた作品を見ていて思ったんですが、パイロットフィルムというのは、ある種の”荒さ”が魅力なんです。つくった人は必ずみんな、何かしらを賭けている。それは膨大な時間であったり、自分のお金だったりして、そういう何かを賭けて生まれるものがパイロットフィルムです。荒削りな部分があっても、映画づくりもこういうところからスタートしていいんだって勇気をくれますし、製作者の「どうしても実現したい」という気迫を纏っているというのは、今回上映される全作品に共通して言えることだと思います。 ――日本の作品を集められたとのことですが、アニメーションや実写、最近のヒット作品から歴史あるものまで、幅広いラインナップですね。 川村:作品をあえてカテゴライズすると、「パイロットをつくって映画化に向けて進行中のもの」「映画化が実現したもの」「諸事情で映画化されなかったもの」の3つになります。だから、「このCGを製作陣やスポンサーが見て、上映に至ったのか」とか、「本編ではこのシーンを変えざるを得なかったのか」とか、「ここまでつくったのに実現しなかったの!?」など、作品の背景にある物語を想像させられるのがすごく面白いと思います。 だからその制作秘話を聞くためにも、トークショーを用意しています。例えば『化け猫あんずちゃん』や『オッドタクシー』といった公開が実現したチームには、こういう部分があったからお金がついてきたとか、作品をつくるために必要なプロセスとは?みたいなことを、つくり手目線からも聞いていきたいと思います。 ――本当にここでしか見られない、聞けないコンテンツだと思います。この上映会には、どんな人に足を運んでほしいですか。 栗林:“狂気フェチ”の人に来てほしいですね(笑)。『HIDARI』を観た時も思いましたが、この段階でここまで詰めてるのかって、本当に狂気的すぎて笑っちゃったんですよ。だから、僕と同じようにそういった“原石”に感激し、グッと来ちゃう人にはぜひ来てほしい。一般の方でもそうですし、プロデューサーの方にも、絶対刺激を与えられると思います。ここで刺激を受けてもらうと、それが他のチームへの応援に繋がったり、クリエイターなら新しい作品の創作の意欲に繋がったりとか、必ず良いサイクルが生まれると思っています。 川村:今回集めてみてわかったのは、ずっと昔からパイロットフィルムというものは存在していたんだということ。長い歴史がありながらも人目についていなかっただけで、実はずっと映画づくりにひっそりと重要な役目を果たし続けていたんです。このイベントを開催することで、そんなパイロットフィルムの魅力を感じて、それが必要となるようなオリジナルな作品にチャレンジする人が増えてほしいと願っています。と言いつつ、クリエイター以外の方が観ても魅力的な作品ばかりなので、ぜひこういった新しい作品の芽をみんながもっと応援していけるような、そんなカルチャーが生まれるきっかけになれたら嬉しいなと思っています。