追悼・桂ざこばさん GⅠで「3-5-8(ザコバ)」馬券を1万円買い続け、ついに高額配当のはずが…(本多正識)
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#198 桂ざこばさんの巻 ◇ ◇ ◇ ざこばさんが「ちゃーちゃん」と呼び、敬愛してやまなかったのが師匠の桂米朝師匠。 【前回はこちら】追悼・桂ざこばさん 「同じ演目」でも「同じ噺」はない“ざこば落語”の真骨頂 ラジオのスタッフから聞いた話ですが、米朝師匠のラジオ番組で、落語はもちろん伝統芸能にも精通したプロデューサーがいました。その番組にゲスト出演された時のこと。 2人が戦前の落語界などの話を和気あいあいと話しているのを聞き、自分が話に入っていけないもどかしさと、師匠があまりにも楽しそうに話をされる姿を見ていて突然(プロデューサーに)「ちゃーちゃんは体験してはるけど、君は見たんか? まだ生まれてもへんやないか!なんでそないよう知ってんねん?」と怒り出されて、米朝師匠に「おまえ、なにを怒ってんねん? この人(プロデューサー)は知識として知ったはんねやないか。勉強さしてもらいなはれ!」と苦笑しながら、たしなめられたそう。 ざこばさんは“僕のちゃーちゃん”と楽しげに話していることへ嫉妬心を抑えきれずにいらしたのです。ざこばさんご自身もそのプロデューサーには一目を置いていて「えらいすまなんだ。かんにんやで」と謝ったそうですが、収録中に怒っていた姿がなんともいじらしく、師匠に対する思いがひしひしと伝わってきたそうです。 またこんな話も。テレビの楽屋へ伺うと、高熱でもありそうなほどうつろな目でグタ~ッとされていたので心配して声をかけたのですが、そこへ一門の(桂)南光さんがやってきて、笑いながら「体は大丈夫です。精神的に落ち込んではりますねん」と言われました。実は、何年もの間、競馬のGIレースに「3-5-8(ザコバ)」馬券を1万円で買い続けていて、ついに高額配当が出たのです。皆、馬券のことを知っているので、電話やメールが山のように届いたのですが、なんと! 「買うてへんねん。実は……」 落語の地方公演が続き、今回に限ってお弟子さんが買い忘れていた。もし万馬券なら100万円……。本番が始まっても「もう言わんといて~や~!」と涙ぐむざこばさんに出演者一同大爆笑! お弟子さんはきっと怒られた後に「かめへんかめへん。気にしいな」と気遣われたことだと思います。 上方落語の普及と若手噺家の育成に尽力された桂ざこばさん。天国では敬愛してやまない大好きな米朝師匠に「あの世に来たんやさかい、ちょっとは落ち着いたらどうやねん」と苦笑されながら落語談議に花を咲かせておられることでしょう。 (本多正識/漫才作家)