「本×野菜」絶妙に良い関係 書店でコラボが広がる理由
本と一緒に野菜を売る都心の書店が人気だ。有機栽培の農産物を使った食生活を提案したり、駅前の立地を生かして帰宅途中に地元産品を買いたい人のニーズに応えたりしながら、環境配慮型や都市型の農業を支える。インターネットの普及で書店が減り続ける中、「本×農産物」は双方の未来を開く挑戦だ。
有機野菜囲み 料理本ずらり
京都市中京区の繁華街にある複合商業施設。その1階に入居する「本と野菜OyOy(おいおい)」は、通路側の全面がガラス張りで、外から店内が見通せる。手前にカフェ、中ほどにルッコラなど旬の野菜や果実、加工食品の売り場、そこを料理本を中心とした本棚がぐるりと囲む。 400軒の契約農家が有機栽培で育てた農産物を販売する「坂ノ途中」が、本の校正・校閲と書店を運営する「鴎来堂」の協力を得て2020年6月にオープンさせた。コンセプトは「100年先もつづく、農業を」。環境に優しい農業を支える暮らしを、本(読む)と野菜(食べる)で提案する。カフェの目玉メニューは店内で販売する野菜を調理したプレートと野菜スープだ。 カフェで野菜プレートを食べ終えた女性(29)は「野菜の味が濃くて甘い。こんな野菜を育てる農家に感謝したい」とほほ笑んだ。 店長の竹島千賀さん(33)が言う。「無農薬栽培は労力も時間もかかり、大量生産が難しい。だから、顧客と共に支えたい」。鴎来堂の柳下恭平さん(48)は「ジャンルの特化は生き残り策。野菜を置くと、消費者の生活動線に書店を入れてもらえる」と語った
地元産に愛着 市民の心つかむ
東京都東久留米市の東久留米駅前にある「野崎書林」。絵本から文芸書まで幅広いジャンルの本が並ぶ売り場の2割を4年前、マルシェに変えた。地域の農家15軒から季節の野菜30品目を仕入れる。 経営者の野崎林太郎さん(38)が大手IT・電機メーカーを辞め、父(74)から書店を継いだのは31歳の時。しかし、電子書籍の普及などを背景に、売り上げの右肩下がりは止まらなかった。 同市は東京都心から電車で約20分だが、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツ、梨、ブドウなどを作る都市型農業が盛んで、地元産に愛着を持つ市民は多い。一方、市の玄関口である同駅は1日5万人が利用するものの、駅周辺には地元産野菜を買える場所がなかった。 「帰宅途中に地元産を買いたい人はいるはず」。野崎さんはそう考え、売り先に困っていた少量多品目栽培の農家に呼びかけた。口コミなどで客が増え、野菜とともに本の売り上げも伸びている。 サニーレタスなどを納入する農家、茅野健太さん(32)は「本と野菜、組み合わせ的にどうなんだろうと思ったが、今では東久留米の名物になった」と喜ぶ。野崎さんが言った。「都市の食を守る農家を支えながら、子どもからお年寄りまで全ての世代が本を買いに来る書店を残したい」(佐野太一)
日本農業新聞