ダウ90000・吉原怜那×枝優花対談 有料という“ゲート”が生む「ちょうど良い距離感」
コロナ禍をきっかけに在宅時間が増え、需要が高まった音声メディア。一過性のものに終わらず、現在は人々の生活に根付いてきた印象だ。そんななかでも、異彩を放っているのが『Artistspoken』だ。芸人、作家、映画監督、俳優、アイドル、美術家などおよそ100組以上の面々が集結し、配信を行っている。一見世代や活動領域もバラバラに見えるが、唯一の共通点は“表現者”だということ。 【写真】ダウ90000・吉原怜那、枝優花の撮り下ろしカット 今回は単独演劇公演も即完する8人組コントユニットのダウ90000・吉原怜那と出世作となった『少女邂逅』を始め、直近ではanoのMVも手掛けた映画監督の枝優花にインタビューを実施。音声メディア市場で、『Artistspoken』が成功を収めている理由や自身の番組の裏話などについて、語ってもらった。 ・「有料」はいいスパイス ーー改めて、お二人が『Artistspoken』での配信を始めた経緯を教えていただけないでしょうか? 吉原怜那(以下、吉原):私は、同じ芸人の令和ロマンさんやヨネダ2000さんが番組を配信を始めたのをきっかけに、『Artistspoken』の存在を知りました。令和ロマンさんが「有料だ! 博報堂だ!」っていうのを言ってて(笑)。それからずっと気になっていて、『Artistspoken』で配信するのがずっと憧れだったんです。 枝優花(以下、枝):私は3年前くらいから配信させていただいているんですけど、正直ここまで大きなプラットフォームになるとは思っていませんでした(笑)。最初は配信されている方も20組くらいしかいなくて、「これからどうなっていくかわからないんですけど、とりあえず配信してみませんか」と、けっこう実験的な感じで始めたんです。でも気づいたらすごく人が増えていて、友達のアーティストさんが配信していたり、業界の人に「聴いているよ」と言われたりして、こんなにすごいことになるとは……! と、驚いています(笑)。 ーー100組以上のアーティストの方が参加しているのも、大きな特徴ですよね。 吉原:いろんな人が参加しているプラットフォームだけど、Artistspokenのメンバーはどこかチーム感があるように感じますね。そこに自分が入り込めているのもすごく嬉しいし、『Artistspoken』で配信している芸人さんとすれ違ったら、ちょっと嬉しくなります。 私は「ダウ90000」というユニットを組んでコントなどをしているんですけど、お笑い芸人なのか劇団なのかはっきりしろ、と言われることがすごく多いんです(笑)。外から見たら「ダウ90000」ってすごく曖昧な存在のようで。でも『Artistspoken』のジャンルレスな空気感が、私たちの存在と少し似ていて、心地いいなと思います。あと、芸人以外にも作家さんや文化人の方も参加していることで、コンテンツ自体がすごくおしゃれな気がします(笑)。 枝:たしかに、キービジュアルとかサイトのデザインもおしゃれだよね。 吉原:芸人だけの音声コンテンツだったら、絶対ここまでおしゃれになってない(笑)。自分までおしゃれな人になった気分になるので、ありがたいですね(笑)。 ーーArtistspokenには“有料”(※)という特徴があると思うのですが、お二人はどう感じていますか? ※各アーティストの4話目以降は有料。定期購入の登録をすると、その1アーティストの全ての配信音声が聴き放題で楽しめる。 枝:ドラマなどを制作しているときは、番組が始まる前に裏話なんかを発信したりするのですが、文字で発信すると変に切り取られて予想していなかった解釈をされてしまうこともあるので、難しいんですよね。人によって発信したことに対しての読解力が違いすぎて、誰でも見ることができる場ではなかなか発信できなくて。 吉原:わかります。けっこう気を遣いますよね。 枝:でも“有料”っていうハードルがひとつあると、伝える相手は少なくなるのですが、あんまりそういうことは起きなくなるんです。だから発信する側も、話しやすいんじゃないかなと思います。 吉原:私も有料っていうのは、『Artistspoken』の大きな特徴かなと思っていて。リスナー側からすると、有料の配信ってなにを話してるのかめちゃくちゃ気になるんですよね(笑)。私も先輩芸人の番組を聞いているんですけど、有料のところではお笑いについての分析とか、賞レースについてとか、楽屋でしか話さないようなことを話してて(笑)。 枝:それめっちゃ聴きたいかも! 吉原:だからリスナーにとっては、聞きたいと思わせる“引き”になってるのかなと感じます。私は、カンニング竹山さんと一緒に『違和感なふたり』という番組を配信しているんですけど、有料ということに対して、最初はすごく意識をしていたんです。みんながお金を払って聴いてくれてるんだから、それだけの価値があることを話さなくちゃって。 そしたら竹山さんが「いや、関係ないよ」と言ってくれたんです。有料だから言い憎いことを言うとか、わざわざしなくていいんだよって。その言葉でかなり楽になりましたね。変に力んでいたのがスッと抜けたというか、自然に楽しめるようになったと思います。でもいまでも有料っていうのはどこか頭の片隅にあって、Artistspokenだから話せるなってことを話したいと思うし、リスナーにとってもいいスパイスになるようなコンテンツになっていったらいいなと思います 吉原「日常生活でも竹山さんに話そうって瞬間がある」 ーー吉原さんは、以前からカンニング竹山さんと交流などはあったのでしょうか? 吉原:いや、それがまったくなかったんです(笑)。だから、最初にお相手がカンニング竹山さんと聞いたときはかなり驚きました。でもいま思えば、もし相手が同じくらいの若手芸人だったら、もっと探り探りになっていたのかなぁと思います。竹山さんくらい大ベテランで歳も離れてて、人間としての属性も全然違うような人と組んだ方が番組が面白くなるだろうし、私もまだまだ若手なので、頼らせてもらっています。 ーー収録はどのように行っているのでしょうか? 吉原:スタジオで月に1回4本録りをしています。1回だいたい25分くらいですね。最初はお互いの世代のギャップについてよく話していました。竹山さんが50代で私が23歳なので、親子くらい歳が離れてるんですよ。番組タイトルも『違和感なふたり』なので、そのギャップが伝わるように意識していたんですけど、意識しすぎてトークの内容が固まっちゃって。 でも最近はそこから少しずつ変わってきて、“竹山さんに話したいこと”を話そうと思うようになりました。日常生活のなかで、「あ、これ竹山さんに話そう」と思う瞬間があるんです。それを溜めておいて、収録のときに話すようにしています。竹山さんも「これ、れなちょに聞きたかったんだけどさ」っていうことを話してくれて、それがすごく嬉しいです。最近は、MBTIの話をしたのがめっちゃ楽しかったですね。 ーー枝さんはおひとりで配信をされているかと思うのですが、どのように収録をしていますか? 吉原:それめっちゃ気になります。ひとりで30分くらい話すってことですよね? すごい……。話す内容とかどうやって考えているんですか? 枝:私は事前に決めちゃうと固くなっちゃうタイプなので、録音ボタンを押して喋りだしちゃいます。長く続けているからっていうのもあるかもしれないんですけど、質問とかを見るとみんな、なにを知りたがっているのかがなんとなくわかってくるんです。そもそも映画監督って、生活リズムとかけっこう謎だと思うんですよ。だから今週何をしていたのかっていう近況報告から始めることが多いですね。 でも忙しかったり、自分のメンタル的に収録まで気持ちが追いつかなかったりするときは全然休んじゃいます(笑)。そこもけっこう自由にやらせてもらっているので、ありがたいですね。 ーー枝さんのリスナーの方は、どんな人が多いのでしょうか? 枝:同世代のリスナーさんが割と多くて、「会社を辞めたいけど、どうしたらいいのか」とか、進路や就職とか、人生相談されることが多いですね。私はいままで好きなことやって、結果こうなったっていう人生を歩んできた人間なので……。だからそういう相談が多いのかもしれません。3年前にメッセージしてくれた方から、「枝さんが言ってくれたことを実行して、いまこんな生活をしてます」というメッセージをもらったときはすごく嬉しかったです。 吉原:めっちゃいい話……! 枝:あと、「会社で働き続けるか悩んでて、島に旅行に行ったときにピンときて、そのまま島に移住して働きました」みたいな人もいました(笑)。すごいですよね。私も常に自分がやりたいことをやってきた人間なので、「いましかないよ!」みたいなことをみんなにずっと言い続けてて。やりたいことって、過去でも未来でも回収できないじゃないですか。だから無責任な言葉かもしれないけど、その人の行動の後押しになってたら嬉しいですね。 吉原:枝さんに相談したくなる気持ち、わかるなぁ……(笑)。自分の想いを言い続けるってめっちゃ大事ですね。ちなみに私いまお金ないんですけど、ひとり暮らししようか迷ってて。それでもやってみた方がいいと思いますか? 枝:マジの悩み相談だ!(笑) ひとり暮らしをすると、自分のやりたいこととか興味あることも明確に見えてくるので、おすすめですよ。環境を変えようと思うようになったら絶対それがタイミングなので、面倒臭くなってしまう前に行動するのもいいかもしれないですね(笑)。 吉原:よし、ひとり暮らしします! ・無法地帯に生まれるちょうどいい“距離感” ーー『Artistspoken』での配信で得た気づきや発見などはありましたか? 吉原:今年の5月から、「超ときめき♡宣伝部」というアイドルグループの子たちの番組がスタートしたんですけど、メンバーの小泉遥香ちゃんが子役時代からの友達なんです。このあいだ10年ぶりくらいに再会したときに、お互い『Artistspoken』で配信していることを初めて知って。あのとき一緒にレッスンを受けてた友達が、“アイドル”と“芸人”っていう別々の道を歩んで、また同じ場所で再会するってすごいなと思って。この場所があったからまた出会えて、そのつながりがすごく嬉しかったです。 ーーそれは素敵な出会いですね。枝さんは3年間続けてきて、『Artistspoken』は改めてどういった場所だと感じていますか? 枝:私は仕事柄SNSを半分仕事として使うことも多くて、最近は考えすぎて気軽に投稿しづらくなってたんです。でも、別のアカウントを作るほどのパワーはなくて……。なんか昔はもっと気軽にSNSやってたのになぁっていう、寂しさもありました。 そんなとき、ある人が「このSNSはもう私のアカウントで私の国だから、私の国に入ってくるんだったら私の国のルールに従ってもらいます」みたいなことを言っているのを見たことがあって、妙に納得したんです。いまは無法地帯になっているけど、私も自分の国が守れたらすごくいいのにって。『Artistspoken』は有料という“ゲート”があるから、そういう意味でもちょうどいいなと思いました。これから参加されるアーティストの方はもっとどんどん増えて、規模も大きくなっていくと思うんですけど、このリスナーとの距離感はずっとちょうどいいままなのかなと思います。聴きたい人が聴きたいという距離感が心地良い場所だと思いますね。
はるまきもえ