「鼻に鉛筆を挿すのと同じ痛み」…「口から食べられなくなった」先にある『チューブ』につながれた生活
2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル 介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務める筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(髙口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。 『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第20回 『「救急車を呼びますか?」「入院しますか?」…施設介護は“選択”の連続!“最期”の選択で後悔しないように心がけるべきことは?』より続く
口から食べられなくなったときチューブを入れるかどうか
施設に入居したお年寄りは、介護職員と一緒に支えられながら、そこに新たな生活の場をつくっていきます。 しかし、その生活の場や生活そのものを、改めて見直さざるを得ない時期がやってきます。体が弱ってきて、いよいよターミナルステージにさしかかってきたときです。 そこで私たちは、もう一度家族と話し合い、ターミナルケアの方針を決めていきます。 その際、必ず家族に確認する大事なポイントが3つあります。 (1)口から物が食べられなくなってきたときに、チューブを入れるかどうか。 (2)状態が急変したときに、救急車を呼ぶかどうか。 (3)施設でターミナルケアを行う場合、ときには死後発見になってしまうことがあるかもしれないということ。
チューブには鼻腔栄養と胃瘻の2種類がある
ここではまず、(1)のチューブを入れるかどうかについて述べてみます。 年をとって歯や筋肉が衰えたり、認知症を発症したりすると、食べ物を噛んだり飲み下したりすることができにくくなります。中には固形物が喉を通らず、ミキサーで砕いてトロトロにしたミキサー食を食べている人もいます。衰弱が進んでくると、そのミキサー食さえほとんど食べられなくなります。 この状態が続けば、生命を維持するのに必要な水分や栄養が摂れなくなってしまいます。そこで、水分や栄養を補給するためのチューブを体に入れるかどうかを決めなければなりません。 この場合の「チューブを入れる」とは、管を通して栄養剤や水分を補給する「経管栄養」のことです。これには、鼻から細い管を通す「鼻腔栄養」と、おなかに穴を開けて胃に直接管を通す「胃瘻」の2つの方法があります。 鼻腔栄養は胃瘻に比べれば体を傷つける手術を必要とせず、鼻から胃まで管を通すだけですみますが、鼻に異物が入っている状態は見るからに痛々しく、当然不快感もあります。入居者の家族から、 「それって痛いですか?」 と聞かれることがあり、その際には、 「ご自分の鼻に鉛筆を入れた状態を想像してみてください」 と答えます。もちろん鉛筆のようにかたくて太い管を入れるわけではありませんが、いくら細くても鼻から異物が入ることに変わりはありません。そのことをイメージしてほしいのです。 お年寄りの中には平然としているように見える人もいますが、それはもはや異物感すら感じないほど感覚が鈍くなっているか、不快感を訴える気力すらなくなっているのかもしれません。 一方の胃瘻は、おなかに穴を開けるために病院で手術を受けなければなりません。胃瘻を設置したあとは鼻腔栄養のような異物感はなく、不快感もほとんどありません。しかし、麻酔をするような手術が必要になるため、お年寄りの体へのダメージは大きく、胃瘻を設置することには鼻腔栄養以上に抵抗を感じる家族もいます。また施設によっては、鼻腔栄養や胃瘻を設置された人の入居を受け入れないところもあるようです。
髙口 光子(理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士・現:介護アドバイザー/「元気がでる介護研究所」代表)
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