佐野元春&THE COYOTE BAND、観客を狂喜の渦に叩き込んだツアー最終公演
一方通行の啓蒙や継承ではない、何かを企てる少年同士のような関係
そして“世界は慈悲を待っている”以降は一転、佐野元春とTHE COYOTE BANDが生み出してきたレパートリーが届けられていった。ジャケットを脱ぎながら「みんないい感じ? 一緒に踊ろう、“愛が分母”!!」と力強く呼びかけ、踊るようにジェスチャーを交えてバイタリティを漲らせてゆく佐野である。 未来という神秘を前に、フューチャリスティックなサウンド表現として堂々ロックする“銀の月”。アルバム曲でありながら、ヒット・シングルになっていてもおかしくない芯の強いメロディが際立つ“クロエ”。「みんなまだ大丈夫? ブチ上がっていこう、エンタ、エンタ、エンタ、エンタ、“エンタテイメント!”」と、楽しそうにオーディエンスに挑みかかったりもする。際限なくヒートアップしてゆく“La Vita è Bella”では、ステージ後列にどっしりと構えていた高桑までもが最前線に躍り出てくるほどだ。 共に生きる時代を鋭く批評しつつ、あるときは人々を優しく鼓舞し、またあるときは目一杯挑発してみせる佐野元春の表現。だからこそ「今」の熱狂にフォーカスすることができる。自分よりも若い世代のミュージシャンと対話を重ねながら築き上げてきたTHE COYOTE BANDとのキャリアは、『今、何処』という直近の傑作を経てなお、すでに次なる扉を開けて先に進もうとしている。ライブ本編の最後、あらためてのメンバー紹介を交えた“禅ビート”で深沼が猛烈なラストスパートのギターソロを弾き倒しているとき、佐野は深沼の額に触れ「アチチチ!」とコミカルな素振りを見せた。一方通行の啓蒙や継承ではない、何かを企てる少年同士のような関係が、そこには見て取れたのだ。 アンコールに応えてなお、渡辺の雄弁なピアノ演奏から飛び込んでゆく“ヴァニティ・ファクトリー”をはじめ、バンドとオーディエンスの熱は衰えることを知らない。「今から80年代の曲をやる。でもそれは、懐かしむためにやるんじゃなくて……まあちょっとは懐かしいけど(笑)、今を楽しむためにやるんだ!!」と告げ、BPMの速い“悲しきレイディオ”が盛大な合唱を巻き起こすのだった。今の佐野元春を駆り立て、今の佐野元春が立ち向かおうとしているのは、「あの頃の佐野元春」である。 スタンドマイクから身を離してオーディエンスに歌を丸投げしてしまうデビュー曲“アンジェリーナ”で、今回のステージは万感のクライマックスを迎えた。来たる2025年は、デビュー45周年、THE COYOTE BANDの結成20周年というダブル・アニバーサリーに当たる。「来年のアニバーサリー・ツアーは僕らにとって最大のホールツアーにしたいと思いますので、そのときはぜひ、友達や家族を誘って遊びにきてください」と、佐野元春はライブの疲れなど微塵も見せることなく、笑顔で呼びかけるのだった。 TEXT:小池宏和 佐野元春 & ザ・コヨーテバンド/ 2024年初夏、Zepp Tourで逢いましょう 2024年8月1日(木)KT Zepp Yokohama セットリスト 1. 君をさがしている(New Recording 2024 ver.) 2. ヤングブラッズ(New Recording 2024 ver.) 3. ジュジュ(New Recording 2024 ver.) 4. 誰かが君のドアを叩いている(New Recording 2024 ver.) 5. 欲望(New Recording 2024 ver.) 6. インディビジュアリスト(New Recording 2024 ver.) 7. 世界は慈悲を待っている 8. 愛が分母 9. 銀の月 10. クロエ 11. 純恋 12. エンタテイメント! 13. La Vita è Bella 14. 東京スカイライン 15. エデンの海 16. 水のように 17. 大人のくせに 18. 明日の誓い 19. 禅ビート ENCORE; EN1. ヴァニティ・ファクトリー EN2. 悲しきレイディオ EN3. ダウンタウン・ボーイ EN3.アンジェリーナ
Rolling Stone Japan 編集部