フジコ・ヘミング、音楽の原点は“色”「センチメンタルなものもいいじゃない」
大切なリサイタル直前に聴力を失う 治療の傍らピアノ教師となり演奏活動を継続
東京芸大卒業後、本格的な演奏活動に入り、日本フィルはじめ数多くの国内オーケストラと共演。来日中だったフランスのピアニスト、サンソン・フランソワは、フジコのショパン、リストの演奏を絶賛した。28歳でドイツへ留学、ベルリン音楽学校を優秀な成績で卒業すると、長年ヨーロッパに在住しキャリアを重ねた。 今世紀最大の作曲家・指揮者の一人と言われるブルーノ・マデルナに才能を認められ、彼のソリストとして契約。この契約に際しては、フジコの演奏に感銘を受けたレナード・バーンスタインやニキタ・マガロフ、シューラ・チェルカスキーからの支持と援助があったという。ところが、「一流の証」となるはずのリサイタル直前に風邪をこじらせ、聴力を失ってしまう。
失意の中、ストックホルムに移住したフジコは治療の傍ら、音楽学校の教師の資格を取得、ピアノ教師をしながらヨーロッパ各地でコンサート活動を続けた。 母の死をきっかけに失意の帰国、貧困と戦いながらも日本での活動を続け、冒頭のNHKのドキュメント番組に取り上げられた。そして国内でも一躍脚光を浴びることになった。
フジコが目指す音楽とは? 誰が演奏しているかはあまり重要ではない
フジコが昔から一貫して大事にしているのは、モーツァルトもショパンもまったく知らない人たちにもいい音楽だなと思ってもらえる演奏なのだとか。ビギナーがクラシック音楽に親しむにはどうするのがよいか、ヒントを聞いた。 「好きなジャンルの音楽を聴くなら、誰が演奏しているかはあまり重要ではない。誰が弾いていてもいいから、聴きますよね。私の母はうまいピアニストじゃなかったけれど、私が子供のときに夜寝ると、ショパンのノクターンなんかを弾き出して、それがすごく良かったんです。さほどうまくない人でも、一生懸命稽古したものを演奏すれば、人を感激させることはできると思うんです」 自身はベートーヴェンやモーツァルト、ハイドンらよりも、印象派のフランスの音楽家ドビュッシーやロシアのチャイコフスキーらのほうが好きなのだという。 「そういう音楽会のポスターを見れば、時間さえあれば行きたいです。最近は忙しくて行けないから、せめてCDを毎日かけています」 理屈は抜きで、聴きたいと思った音楽を存分に聴くことが大事ということなのだろう。