平均密度がわたあめ並の惑星「WASP-193b」を発見
■わたあめ並の密度の惑星「WASP-193b」を発見
Barkaoui氏らの研究チームは、極端に低密度なホットジュピター「WASP-193b」の発見を報告しました。WASP-193bは地球から見て「うみへび座」の方向に約1200光年離れた位置にある恒星「WASP-193」の周りを約6.25日周期で公転しており、太陽系外惑星観測プロジェクト「スーパーWASP」による過去の観測データの分析によって発見されました。 WASP-193bはスーパーWASP以外にも、ウカイムデン天文台のTRAPPIST-South望遠鏡(モロッコ)、パラナル天文台のSPECULOOS-South望遠鏡(チリ)、ラ・シヤ天文台の3.6m望遠鏡(チリ)に設置された分光器「HARPS」、ジュネーブ天文台のレオンハルト・オイラー望遠鏡(スイス)に設置された分光器「CORALIE」、およびアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」によっても観測されており、それぞれの観測データをもとにWASP-193bの物理的な性質の詳細が明らかにされました。 WASP-193bは、直径は木星の1.464±0.058倍あるものの、質量は木星の13.9±2.9%しかありません。このため、平均密度は1立方cmあたり0.059±0.014gという極端に小さな値となります。1立方cmあたり約0.05gしかない “わたあめ” と同じくらいの密度であると考えれば、WASP-193bがいかに低密度な惑星なのかがイメージできるかと思います。この平均密度は、詳細に観測されている惑星の中では2番目に低い値です(※4)。
■低密度な理由は大きな謎
もちろん、WASP-193bはわたあめでできているわけではありません。水素とヘリウムが主体の組成に加えて、恒星からの放射によって1000℃近い高温(1254±31K)に熱せられたことによる熱膨張が低密度の理由だと考えられます。ただし、従来の惑星モデルで計算したWASP-193bの直径は木星と比べて最小で0.68倍、最大でも1.2倍(※5)であり、実際に観測された約1.5倍とは大幅に異なります。木星の1.2倍という上限値は惑星の中心部に岩石を主成分とする高密度の核が存在しないという惑星形成論的にあり得ない仮定をした上での計算値なので、現実的には1.2倍よりも小さな値を取る可能性が高いと考えられます。 複数の仮説(※6)について検討したBarkaoui氏らは、「オーム散逸」というメカニズムがWASP-193bの直径を最もよく説明できると考えています。WASP-193bのように極端な加熱を受けている惑星では、惑星の表面と内部を行き来する非常に激しい物質循環が発生します。また、恒星からの放射によって、大気中に含まれる微量の金属原子(※7)がイオン化されます。惑星の内外を循環するイオンは電気を帯びた粒子の流れであり、電流のように振る舞うことで、電磁誘導による加熱が発生します。言ってみれば、WASP-193bは惑星全体がIH調理器の原理で加熱されているようなものだと考えることができます。 ただし、「最も有望なメカニズムであると思われる」としながらも、WASP-193bの低密度さがオーム散逸によって説明可能かどうかはBarkaoui氏らも確定させるには至っていません。WASP-193bの低密度を説明する仮説には従来の惑星モデルを大幅に逸脱する点が複数含まれているため、現時点では「これがWASP-193bの説明として正しい」と強く主張できるような状況には無いためです。 そこで、Barkaoui氏らは「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」による追加観測に期待を寄せています。非常に密度の低いWASP-193bでは、惑星の大気を通過した恒星からの光が、惑星のかなり深部からでも届くと考えられるためです。ウェッブ宇宙望遠鏡の性能ならば、大気中に含まれる微量元素や塵の量といった、惑星の加熱に関わる様々な物質の量をかなり詳細に分析することができるでしょう。もしWASP-193bの内部構造が詳しく観測できれば、WASP-193b以外の低密度な惑星の理解も深まり、惑星モデルの修正ができるようになるかもしれません。