「ヒジがぶっ飛びました」島袋洋奨が“壊れた”440球の異常な酷使…甲子園春夏連覇のエースを襲った“さらなる悪夢”「もうダメだ…完全に終わった」
「もうダメだと…この試合で終わりました」
その後の國學院大戦でも、初回1死一、三塁の場面で暴投により先制点を献上する。その後、四球で一、三塁となったところで再び暴投で追加点。1回1/3を投げて3失点、またもや降板となった。 「青学大戦ではバックネットに投げまくりました。次の駒澤大戦でも何球か暴投したんですが、8回まで投げ切りました。でも、次の國學院大戦で大暴投を連発して、完全に終わった感じです。この時、マウンドから“ストレートが投げられない”というサインをキャッチャーの東(隆志)に出していたんです。でも“来い来い”とジェスチャーするので、仕方なく真っ直ぐを投げました。東も届かないほどボールが大きく上に逸れたときに、もうダメだと思いました。それまでも投げる時には気持ち悪さがあったんですが、この試合で終わりました」 島袋の口から二度、「終わった」という言葉が発せられた。この時、彼はどれほどの絶望を味わったのだろうか。肘の故障から復活を遂げたのも束の間、このときから島袋は決して霧が晴れない苦難の道に迷い込んでしまった。 高校時代の恩師・我喜屋優は、神宮球場で大学時代の島袋を見て口惜しさを感じたという。 「何かどっか引っかかってスムーズじゃない。リリースポイントもバラバラ、下半身と上半身の連動性も一定していなくて、終始ぎこちない。なんでこんなフォームになっちゃったの、って感じだったんです。調子が悪くなると、あのトルネード投法は指導者がいじりたくなる投げ方なんですよ。ちょっと走られただけで『お前、盗まれてるぞ』とかね。だから本来持っている大事なものまで失っちゃうわけですよ。下半身をいじったために、彼だけが持っている感覚が崩されてしまった。持っている力と可動域と柔軟性が合わさって、瞬間的にパワーが伝わって、ようやく糸を引くようなストレートが投げられるのに……」 大学3年の秋から、島袋は無敵の“琉球トルネード”島袋洋奨ではなくなった。得体の知れない影が絡みついているかのように、腕が縮こまって上手く投げられず大暴投を繰り返す。認めたくはないが、何かが壊れてしまっていた。それは紛れもなく、イップスの症状だった。 <続く>
(「甲子園の風」松永多佳倫 = 文)
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