【今見るべき映画】エルヴィス・プレスリーの妻の葛藤と成長を描く映画『プリシラ』をレビュー
海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、エルヴィス・プレスリーと恋に落ちたプリシラの物語『プリシラ』をレビュー。 【画像】今祥枝の考える映画 ●ナビゲーター 今 祥枝 一年365日、映画&ドラマざんまいのライター、編集者。編集協力に『幻に終わった傑作映画たち』(竹書房)。
『プリシラ』
■10歳年上のスーパースターと恋に落ちた女性の葛藤と成長 伝説のスーパースター、エルヴィス・プレスリー。昨年公開された映画『エルヴィス』が、そのアーティストとしての偉大さと苦悩を、改めて世に知らしめた。しかし、カリスマとして強い光を放つエルヴィスの影に埋もれてしまった人々の存在がある。その一人が、エルヴィスの唯一の妻であるプリシラ・プレスリーだ。 監督は、『マリー・アントワネット』などで知られるソフィア・コッポラ。1985年に出版された回想録『私のエルヴィス』に基づき、徹底してプリシラの視点に寄り添い、明確にエルヴィスを脇役として描くことで、出版当時は世間の関心も共感も薄かったプリシラの葛藤と成長を、現代に生きる女性の心に響く物語として再解釈している。 プリシラ(ケイリー・スピーニー)がエルヴィス(ジェイコブ・エロルディ)と出会ったのは、継父の仕事で異国ドイツで孤独を感じていた14歳のとき。10歳年上のエルヴィスは母親を亡くしたばかりで、傷つき不安な心の内をプリシラには隠さなかった。エルヴィスが帰国後も親交が続き、1963年に17歳でプリシラは親元を離れ、エルヴィスが住むグレースランドへ。21歳で結婚し、出産を経て5年後に離婚を決意するまでが描かれる。 10代でエルヴィスの世界に飛び込んだプリシラは、その特徴的なヘアスタイルやメイク、ファッションなどがエルヴィス好みの女性へと変貌していく。恋をした10代にとって、それは珍しいことではないだろう。だが、高校に通いながらドラッグやアルコールも含めて、疑うこともなくエルヴィスの世界にどっぷりと染まっていく姿は、コッポラの夢見るようなガーリーな映像世界と淡々とした語り口であるからこそ、グロテスクにも感じられて、関係の不均衡さにぞわりとする瞬間も。 プリシラの体験は特殊なものではあるが、いい悪いではなく、そこには驚くほどの普遍的な感情がある。そして、傷つき、葛藤しながら自立を求め、一人の人間として成長していったプリシラの人生もまた、エルヴィスと等しく意味のあるものであることに気づかされるのだ。 監督・脚本/ソフィア・コッポラ 出演/ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディほか 配給/ギャガ 公開/4月12日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開 ©2023 The Apartment S.r.l. All Rights Reserved.
※BAILA2024年5月号掲載