クルマ好きがバイクに「惚れる」理由 何物にも代えがたいライディングの魅力とは
バイク乗りは「楽」じゃない
しかし、ライディングの前には準備しなければならないことがたくさんある。バイクを鍵のかかった倉庫にしまっている人もいるし、カバーをかけている人もいる。昼飯の弁当箱を助手席に放り込むわけにはいかないので、バッグにしまっておく必要がある。カップは持っていけないから、家を出る前にコーヒーを飲み干さなければならない。仕事用の靴は大抵、ライディングには使えないので、袋に入れて持ち運ぶ必要がある。 室内でライディング用の服に着替えると、オーバーヒートして汗をかき、ライディング中に風が当たって骨の髄まで冷えてしまうので、ヘルメットをかぶる直前に硬いプレート付きジャケットを着る。仕事着や弁当などの荷物もあるので、玄関から何度も往復しなければならない。 そして、家の鍵をしっかり閉めて、荷物をベルトやひもで固定し、最後にジャケットとヘルメットをかぶって……ああ、いけない、耳栓をするのを忘れた。 確かに、バイクはクルマよりも場所を取らないし、渋滞にも巻き込まれにくい。しかし、通勤時間をすべて街中で過ごすスクーター乗りは時間を節約できるが、郊外に住む人がバイクに乗っても、せいぜい周りのドライバーの通勤時間を短縮するだけだ。 それから、バイクの世話をする手間もある。洗車や注油はクルマより頻繁にしてやらないといけない。それに、クルマとバイクを両方所有するのであれば、その分費用がかさむ。1年のうち気温が「適切」な時期は数か月しかない。筆者は冬や雨の日にはあまり乗らない。
運転の「本質」を教えてくれるのがバイク
筆者はすぐに挫けてしまうし、濡れたバイクウェアを職場で整理しなければならないのは苦痛だ。夏の一番暑い日のジャケットも耐え難いものだが。それに、バイクが交通弱者であることは認めるべきだと思う。編集長と筆者はそれぞれバイク事故で友人を亡くしているし、怪我をした知り合いだって少なくない。だから、まだライダーでない人には、手放しでお勧めできるものではない。 でも、それはそれで残念なことだ。なぜなら、時間を節約するという考えは忘れ、代わりにライディングを人生最高の過ごし方の1つと考えるべきだからだ。筆者にとってライディングは、運転の本質的な楽しみを倍増させるものである。 筆者は人と移動装置とのやりとりが好きだ。馬や自転車に乗りたいと思うのも、蒸気機関車を運転したいと思うのも、飛行機やヘリコプターを操縦したいと思うのも、クルマを運転したいと思うのも、すべて同じ感覚だと思う。技術を楽しく応用して、ここではないどこかへ行く……最終的には、わたし達全員が同じような感覚を抱くのだと思う。 バイクはクルマ以上にその感覚を与えてくれる。おそらくゴーカートを除いて、どんなクルマでもそうだろう。筆者のホンダ・アフリカツインのような大型バイクは220kgあるが、これでも小型乗用車の半分以下だ。余計なものがついていないのも魅力の1つである。 また、バイクは必要以上に大きくならない。軽量スポーツカーで知られるアリエルの創立者サイモン・ソーンダース氏は、軽量なバイクやクルマを設計してきたが、バイクのバッテリーボックスに「2mm」の余裕を見つけて「大喜び」したと言う。純粋にエンジニアリングが好きな人なら、きっとバイクも気に入るだろう。