ノーベル賞科学者が「マラソンで資金集め」⁉資金不足の研究者たちの、予想だにしないカネ集めの仕方とは?
想像を絶する速度で進化を続けるAI。その存在は既存の価値観を破壊し、あらゆる分野に革命をもたらしている。人知を超えるその能力を前に、人類はどう立ち向かうべきなのか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 それぞれの分野の最先端を歩む“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が人間とAIの本質を探る『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋して、新時代の道標となる知見をお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第28回 『「研究費を得るには仕方ない…」資金不足の若手研究者が陥りがちな想像を絶する研究方法とは? 』より続く
フルマラソンで研究資金を集める
山中 僕たちのCiRAには、若手研究者の挑戦をサポートする組織を特別につくっています。「未来生命科学開拓部門」というすごい名前がついていますが、まさに「失敗してもいいから挑戦して未来を開拓してほしい」という願いを込めています。iPS細胞技術を活用して、がんや感染症の発症メカニズムや免疫機構を解明するような、新しい生命科学・医療の分野を開拓する研究を目指しています。 その財源はどのようにして確保するかと言うと、「iPS細胞研究基金」をつくって、僕がマラソンを走ったりして寄付を集めて賄うことにしています。 羽生 ファンドレイジング(寄付募集)マラソンですね。山中先生は毎年何回かフルマラソンに出場して、オンラインで寄付を集められていますよね。 山中 はい。半分はスポーツとしてやっていますが、もう半分は寄付活動なんです。国からの助成金は大学に交付される運営費交付金のほか、さまざまなプロジェクトの競争的資金で、数年ごとにしっかりとした成果を出さないといただけませんから。
日本の研究助成金の課題
羽生 要するに、使途というか目的が決まっているので、新規のものには使いにくいということですか。 山中 いや、そういう挑戦的なことにも使っていいんです。でも3年、5年の助成期間が終わった後に、再度いただけるかと言うと、やっぱり目に見える成果がないと、なかなか続かない現実があります。 その点、アメリカは国に加えて州政府からも助成があります。それ以外に寄付がすごく多くて、民間企業、特にIT関係者が巨額の資金を研究者に拠出していますね。基礎研究もかなりサポートされています。 国からの資金は税金が原資なので、大規模災害の発生や政治的な判断によってその額が上下する可能性もあります。国からの資金だけに頼らないのは、研究費を調達する上でのリスク分散の側面があります。 羽生 国だけに頼らず、民間のサポートを原資にしてゆく。 山中 研究とは、もともとはそうだったと思うんです。昔は大金持ちが、芸術家のパトロンのように研究者をサポートして、自由な研究をさせてあげる。その結果として、さまざまな成果が出てきた。 だから、原点に帰ると言ったら変ですけれども、日本でも国の税金からだけでやりくりするのではなく、一般の方からの寄付で基礎研究を進める部分を今まで以上に増やしていかないといけないと思いますね。 一方で民間企業の資金だけに頼るのも危険です。というのも、たとえば企業側の期待と異なる研究結果が出た場合、トップの判断でそのプロジェクトが中止されるかもしれません。でも科学者の立場から言えば、その予期せぬ結果を基にさらに追究し続けていくと、科学に飛躍的進展をもたらす可能性があります。 『「研究するならアメリカを学べ!」 ノーベル賞科学者・山中伸弥が、「寄付先進国」アメリカのカネ作りをまる裸に! 』 に続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/羽生 善治