「全盛期から激減」も各地を “路面電車”が走る背景 鉄道との違いと国交省も認める“メリット”とは
栃木県を走る路面電車、宇都宮ライトレール「ライトライン」の開業から、8月26日で1年となった。 U字工事、カミナリらがライトライン開業1周年でお祝いのメッセージ JR宇都宮駅東口と芳賀・高根沢工業団地までの14.6キロメートルを結ぶライトラインは、開業384日目となった9月12日に、利用者数500万人を達成。今後は2030年代前半を目標に、宇都宮駅西口方面への延伸を計画している。 また、8月1日に開業100周年を迎えた熊本県熊本市を走る路面電車「熊本市電」は、9月8日に新型車両を公開。100年の歴史で初となる3両編成の車両で、年内にも運行が開始されるという。
鉄道とは異なる法律に基づき運営されている?
日本では1895年に初めて、京都市内で路面電車が開業した。以降、最盛期の1932年には、全国60超の都市、約1500kmで路面電車の運行が行われるなど、主に都市部の交通機関として活躍していたが、昭和30年代以降その数は減少。背景にはモータリゼーションによる道路の混雑化や、地下鉄・バスへの転換があった。 そんな路面電車だが、法律上鉄道とは異なる規定に基づいて運営されているのをご存じだろうか。 路面電車の事業者で構成される「全国路面軌道連絡協議会」の担当者はそれら法律について次のように説明する。 「鉄道と路面電車はそれぞれ、1986年に制定された『鉄道事業法』と1912年制定の『軌道法』に基づいて運営されています。 これらの法律を見比べると、鉄道事業法では線路について、『道路上に敷設してはならない』と規定。一方、軌道法には『線路は道路に敷設すべし』と書かれています」 このほかにも、軌道運転規則では路面電車の最高速度について、「時速40km/h以下」と規定。「車両の全長を30メートル以内としなければならない」とも定められており、街中を走る路面電車ならではの制限があるという。
75年ぶり新規開業、LRT導入のメリットとは
前述したように、最盛期からは路線数が大きく減少した路面電車だが、今もなお全国23の事業者により、約220kmで運行が行われている。 さらに国交省は、「人や環境に優しい公共交通」として「次世代型路面電車システム(LRT)」の利用促進を進めている。冒頭で紹介したライトラインは、「芳賀・宇都宮LRT」とも呼ばれ、1948年開業の万葉線(富山県高岡市)以来、実に75年ぶりの路面電車の新規開業であった。 前出の「全国路面軌道連絡協議会」の担当者はLRTのメリットや今後の展望について、以下のように話す。 「LRTとは、一般的な鉄道に比べて小型で軽量な車両を、簡易的な軌道で走行させる、軌道系の交通システムを示すもので、Light Rail Transit(ライト レール トランジット)の略語です。 長い歴史の中で、国内の路面電車は減少していきました。ですが、LRTの導入には、環境負荷の軽減、交通の円滑化、移動のバリアフリー化、公共交通ネットワークの充実、都市と地域の再生など多くのメリットがあります。 また、LRTの中の一つである低床式車両(LRV)は、路線バスや自家用車に比べて、1人当たりの二酸化炭素排出量が少ないうえに、車両の床面も停留所と段差がなく、だれでも容易に乗降を行うことができます。 こうしたメリットから、われわれは今後もLRTが各地に導入され、地方の活性化がすすむことを期待しております」 100年以上の歴史をもち、今も東京(都電荒川線、東急世田谷線)や、札幌(札幌市電)など都市部でも走行を続ける路面電車。その裏側には、鉄道とは違う法律や、歴史、路面電車ならではの特徴がある。こうした背景を頭に入れて乗ってみると、見える景色も変わるかもしれない。
弁護士JP編集部