CL準決勝で奏功、元日本代表監督「マークしない方法も…」 “エース放置”の意外な定石とは?【コラム】
イビチャ・オシム監督が語っていた言葉「ロナウジーニョを抑えるには…」
もう20年も前になるが、イビチャ・オシム監督(旧ユーゴスラビア代表、ジェフユナイテッド市原・千葉、日本代表などで指揮)がこう話していたのを覚えている。 「ロナウジーニョを抑えるためには、マークしないという方法もある」 当時のスーパースター、ロナウジーニョは対戦相手にとって大きな脅威だった。マークして抑え込むのは容易ではない。オシム監督の案は、マークするのではなくマークさせればいいということ。ロナウジーニョを放置してDFが攻撃すれば、ロナウジーニョを下がらせることができる。ゴールから遠ざけられる。下がってこなければ1人の数的優位を手に入れられる。どちらにしても悪くない。ドルトムントがやったのはまさにこれだった。 ムバッペにはいくつかの決定機を作られたが、プラスマイナスではややプラスだったかもしれない。 思えば、ドルトムントがユベントスを破って優勝した時もジネディーヌ・ジダン対策が周到だった。この時はジダンのいるサイドを試合から切り離して、ジダンに極力ボールが回らないようにしていた。ドルトムントはゴールキックのほぼすべてをジダンのいない左サイドへ回していた。 無双のアタッカーはゴールから遠ざけ、稀代のプレーメーカーにはボールを与えない。スーパースター対策の意外な定石である。 [著者プロフィール] 西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。
西部謙司 / Kenji Nishibe