<挑む・センバツ2023東邦>強さの源流/下 2023年・4年ぶり吉報届く 苦難越えチーム一丸 /愛知
平成最後の優勝以来、4年ぶり31回目のセンバツへの出場を決めた東邦。甲子園を知る部員はおらず、山田祐輔監督(32)にとっても指揮官としては初めての甲子園だ。不安だらけだったチームは試合を重ねながら成長し、令和になって初めての優勝を目指すところまでたどり着いた。 新チームのスタートは足並みがそろわなかった。部員の半数が新型コロナウイルスに感染したため、全員練習ができないまま、秋の地区大会に突入した。けがをしている選手も多く、メンバーは寄せ集め。エース、宮国凌空(2年)は「勝てないチームなのでは」と不安を抱えたままだった。 試合中は互いのミスをカバーし合うだけで精いっぱい。平成最後の優勝メンバーで現在プロ野球中日の石川昂弥内野手の弟、石川瑛貴主将(同)も「試合の中で成長していくしかなかった。試合でもあり練習でもあった」と振り返る。 万全ではない状況で迎えた地区大会は、愛工大名電に1敗を喫しながらも、県大会出場権を得た。県大会では愛工大名電に雪辱を果たした上で、優勝をつかんだ。足並みがそろい始めたようにも見えたが、選手たちにとってその実感は乏しかったという。 東海大会準決勝の大垣日大(岐阜)戦。先制を許した東邦は、相手投手とのタイミングが合わず打線が沈黙し、五回まで無得点のままだった。 投げては先発の宮国が県大会終盤から抱えていた右肩の痛みが増していた。仲間たちの心配をよそに、宮国は「2点差くらいなんとかなる。バッティングで取り返せる」と、仲間たちを信じてマウンドに立ち続けていた。 2点を追う五回裏、東邦の攻撃。2死一、二塁のチャンスで宮国が中前適時打を放つなどして一挙に3点を挙げ、逆転した。野手も宮国の思いに応えるように、六回、七回と加点し、決勝に駒を進めた。宮国は「やっと東邦の野球ができる」とほっとしつつ、ようやくチームとしてのまとまりを実感した。 だが、大きな課題も残った。東海大会3試合でのエラーは7個。万全の状態で全員練習ができていないしわ寄せだった。攻撃面でも「バットを振る力が弱い」(山田監督)状態のままだった。 大会後は特に守備練習に力を入れた。石川はノックを受けるとき、メンバーに「1球1球を大切に。緊張感を持って取り組もう」と声をかけ続けた。12月下旬には4泊5日の沖縄合宿でバットを一日1000回以上振り続け、「振る力」を鍛えた。 そして吉報が届いた。念願の甲子園切符を手に入れた選手たちは、より一層練習に気迫がこもる。実戦形式の練習を増やし、センバツに向けたレギュラー争いも激化している。 山田監督は「全国の舞台を前に選手にとって良い刺激になっていると思う。各自の課題を解決できれば、もっと強い東邦を見せることができる」と胸を張る。 苦難を乗り越え、ようやく一つのチームとなった東邦。最速149キロ右腕の宮国や主砲の石川ら精鋭ぞろいながら、選手誰もが全国の壁は厚いと感じている。試合では劣勢を強いられることもあるだろう。それでも、石川は「逆転するぐらいがちょうどいい」と力強い。 平成から令和へ。脈々と受け継がれてきた不屈の精神と粘りは今も選手たちに宿っている。【森田采花】