平和願う思いは変わらないのに…いつまで続く改憲、護憲のレッテル貼り 二項対立が妨げる「憲法9条」議論
27日投開票の衆院選に合わせ、鹿児島県内で浮き彫りとなっている課題について現状を探るとともに、県内4選挙区に立候補した12人の考えを聞いた。(衆院選かごしま・連載「論点を問う」⑥より) 【関連=全候補者の回答一覧】連載「論点を問う」⑥=憲法9条=自衛隊明記に賛成しますか? 南西防衛強化への考えは?
「世の中に憲法を変えたい人がいるのはなぜ?」 9月下旬、鹿児島市であった憲法学者・木村草太さんの講演で1人の高校生が質問した。幼い頃から学んできた憲法を「もっと大事にしたい」と改憲の動きを心配している。 母(39)=姶良市=は鹿児島市育ちだが、奄美大島にルーツを持つ。戦争で家族を失い、満州から引き揚げてきた祖父母や母から戦争や復帰運動の話を聞いて育った。2人の子どもには、主権者教育をしてきた。週末に買うケーキを投票で決めたり、憲法の紙芝居を読み聞かせたり。個人を尊重し、人権を保障してくれる憲法が学びの中心になっていった。 胸の奧には、祖父から引き継いだ「戦争を引き起こしてはいけない」という強い思いがある。自衛隊施設が整備されていく奄美の現状には、祖父母から聞いた戦争の話が重なる。「米軍は本当に日本を守ってくれるのか。撤退するなら抑止力にはならない」と疑念は晴れない。石破茂首相が提唱する日米地位協定の見直しには賛成だが、憲法9条は「最後の砦(とりで)」と改正には反対だ。
■ ■ 石破首相は、任期中の改憲発議を目指した岸田政権の路線を引き継ぎ、憲法9条への自衛隊明記に意欲を示す。 日本会議鹿児島の副理事長を務める中間貴志弁護士(50)=鹿児島市=は「日本を取り巻く安全保障環境は世界最悪と言っていいくらい危機的な状況」と改憲を訴える。 「他国を侵略するロシア、領海・領空を侵犯する中国、頻繁にミサイルを発射する北朝鮮。日本は安全を脅かす危険な国と接し、今の法律では対処できない事態が想定される」。法整備の根拠となる「自衛隊の憲法明記」を喫緊の課題と位置付け、改憲の議論が進むことに期待する。 鹿児島大学法科大学院の1期生。弁護士となってから知人の紹介で日本会議に入り、十年ほど前から県内各地でミニセミナーを開いている。改憲の意義を市民向けに話してきた経験から「以前は物騒な話と避けられたが、だんだん普通の話になってきた」と手応えは感じている。 「大学で教わる憲法は法解釈ばかりだった。改正の規定があるのに触ってはいけない存在。本来は世の中のニーズに応えられるようアップデートすべき」とし、現実に沿った法体系の整備が平和と安全のために必要だと考える。
■ ■ 「安全保障環境が緊迫度を増しているという現状認識は否定できないが、どんな処方箋を出すかは別次元で考えるべきだ」。鹿児島大学法文学部の三上佳佑助教(憲法学)は、9条改正の議論が脅威への対処として情緒的に進むことに警鐘を鳴らし、「さめた感覚で見ることが大事だ」と話す。 9条改正を「現状に合わせた」と主張しても、周辺諸国からは「軍拡」と捉えられかねない。誤ったメッセージとなるリスクも踏まえた上で地に足のついた議論を求める。 ただ、護憲派、改憲派とレッテルを貼り続ける限り、憲法論議は深まらない。「二項対立の位置付けが実質的な議論を妨げている」と指摘した。
南日本新聞 | 鹿児島
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