坂本龍一の最新にして最後の舞台作品『TIME』。ダンサー田中 泯が語る舞台への想い
坂本龍一が生前、全曲を書き下ろした最新にして最後の舞台作品『TIME』。3 月28日からの日本初公演を前に、ダンサー田中泯に坂本とのクリエーションの経緯を聞いた 【写真】坂本龍一『TIME』
唯一無二のダンサーであり俳優である田中泯は、いったいどのように舞台に存在するのだろうか。 「『人類』になってくれ、と坂本さんに言われました。『人類』が初めて水を発見するときってどうだったんだろう、というのを泯さんに託したい、と。だから僕は、うんわかった、と答えたんです。2007年頃に初めてニューヨークで会ったときから、坂本さんと自分は似ているところがあると思っています。それは、音楽や踊りという行為の始まりに遡り、人間の歴史のすべてを知るためにそれぞれの仕事をやってきたことです。互いに自分の存在を飾ることなく話ができる相手が見つかって、とてもうれしかった」と田中は坂本との関係性を語る。 舞台では、田中、すなわち「人類」は水というものに初めて出合い、その水を渡るための道をつくろうとする。土塊を型に詰めてこしらえたブロックを水の中に置いていくが、それらはもろく溶けてしまい、多くは形をなさない。「自然」を象徴する宮田がたやすく水を渡る一方で、水の中にまっすぐな道を通し向こう側へ渡ろうと格闘する「人間」はきわめて脆弱だ。田中泯はここでも人間の行為の原初に立ち返る。 「道というものは、決して単純に向こうへ歩いていくだけのものではなく、まさに時間の変容を象徴するものだと僕は思います。そこには虚しさとか、儚さとか、あるいは無常さとか、そういうものが詰まっている」 坂本自身が生前に語ったとおり、「シーシュポスのように、道をつくり自然を支配したいという情熱」に駆り立てられ、直線的な時間とともに生きざるを得なかった人類の本質をめぐる、深い考察を促されるシーンである。 本作では「水」もまた象徴的な意味を帯びている。舞台上に張られた水や降り注ぐ水のみならず、背後のスクリーンには烈しい濁流や驟雨 、地球を俯瞰する気象システムなど、水に関係するさまざまな映像が映し出される。本作を観る人の多くが、おそらく近年の地球環境を脅かす気候変動を思い浮かべるだろう。「人間」と「自然」の対比を示すこの作品の根底には、地球温暖化という喫緊の問題があると捉えるはずだ。これに対して、坂本は「もちろんテーマに含まれてはいるが、それがメインのテーマではありません。人類と自然に関する神話をつくりたかったのです」と生前に語っている。