坂本龍一の最新にして最後の舞台作品『TIME』。ダンサー田中 泯が語る舞台への想い
アクティングエリアには水が張られ、時に驟雨が降り注ぐ。田中泯演じる「人類」は水を渡ろうとブロックで道をつくるが、虚しく挫折し絶望する。スクリーンに映し出される烈しい濁流の映像は、高谷が地元京都の鴨川上流で撮影し、すぐに坂本に動画を送ると「これは必ず使おう」と喜んだという
坂本にとって「人間と自然」は永遠のテーマだ。『TIME』のコンセプト立案にも協力した生物学者・福岡伸一と坂本は、ともにニューヨークに拠点を置き、二十年来の交流をもった。坂本は音楽、福岡は生物学において、人間がロゴス(言葉や理性)によって自然を理解することに頼り、理論では説明できないピュシス(人間を含む本来の自然)を蔑ろにしてきたことに危機感を募らせてきた。坂本と福岡とともに『TIME』のコンセプトを担った高谷は次のように解釈する。 「坂本さんが『TIME』というタイトルを掲げ、あえて現代の時間概念の否定に挑戦したのは、ピュシス的な時間の捉え方によるものだと思います。宮田さんの笙の音の話にも通じるように、今見えているものはすべてこの世の仮の姿であるという考え方を思考転換のポイントとして、時間の側に立って時間のことを考えたらどうだろう、ということに至ったのでしょう。もしも今この世の中で、ロゴス的に捉える一直線の時間が共通概念としてなかったとしたら、資本主義など世界の歴史はすべて成り立たなくなります。そういう意味で、坂本さんは人類の神話を根底から覆したかったのではないでしょうか」 高谷の語るところによると、坂本は自身の死後できるだけ早く自然に還り、他の生物の養分になることを望んでいたという。 『TIME』の舞台では、地中に葬られた「女」は100年後に百合の花になってまたこの世に姿を現す。夏目漱石の「夢十夜」にインスパイアされたこの物語について、坂本は「輪廻転生に関する私の信念」と語った。 夢幻能の物語の中では、生と死、夢と現実が境のないものとして捉えられる。私たち「人間」を含む「自然」の時間もまた、永遠のつながりの中で循環しつづける。坂本龍一が遺したこの舞台作品は、時間とその真理をめぐる深遠な問いを投げかけながら、静かに仮の終わりに近づく。 RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI 「TIME」 音楽+コンセプト:坂本龍一 ヴィジュアルデザイン+コンセプト:高谷史郎 出演:田中泯、宮田まゆみ、石原淋 期間: 3 月28日~4 月14日 東京・新国立劇場(中劇場) 4 月27日~4 月28日 京都・ロームシアター京都(メインホール) 特別協賛:シャボン玉石けん お問い合わせ先:パルコステージ TEL.03-3477-5858 BY CHIE SUMIYOSHI