【鳥谷敬】阪神佐藤輝明は残り3カ月で挽回できる 足を使った守備練習は必ず打撃に好影響与える
<鳥谷スペシャル> 輝の浮上に欠かせない要素とは-。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(42)がセ・リーグ戦再開を前に、阪神貧打解消のキーマンの1人、佐藤輝明内野手(25)の今後を分析した。現状に明るい兆しを感じ取った上で、地道な三塁守備練習が攻守に好影響をもたらすと予測した。【聞き手=佐井陽介】 ◇ ◇ ◇ 最近、佐藤輝明選手の状態についてよく尋ねられます。5月15日に出場選手登録を抹消され、6月7日西武戦から1軍復帰。まず大前提として、わずか3週間超の2軍期間で劇的に技術が向上する可能性は高くありません。とはいえ、個人的には打撃の状態に明るい兆しも感じ取っています。 先週末のソフトバンク3連戦中、みずほペイペイドームで本人と話す機会がありました。その時は直球に差される打席の多さに納得できずにいる様子でしたが、16日の1打席目は1回1死一、二塁で石川投手の低めストレートをきっちり仕留め、痛烈なライナーを右前に運んでいます。18日の日本ハム戦でも浅いカウントからタイミングを合わせて振りにいけていました。徐々に状態は上がっているのではないでしょうか。 交流戦終了時点で44試合出場の打率2割4厘、3本塁打、17打点。1軍再昇格後に限っても9試合出場で打率1割8分2厘、0本塁打、0打点。数字だけを見れば、本来の実力を発揮できていないと言わざるを得ません。一方で、オフに米シアトルのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」で打撃フォームを見直して今季を迎えた事実も忘れてはいけません。 博多で雑談中、佐藤選手にタイミングの取り方を聞くと「胸郭で取っています」と返ってきて驚きました。きっと人知れず試行錯誤しながらベストな形を追求しているのでしょう。昨季は自己最多タイの24本塁打、自己最多の92打点。とはいえ、いくら前年の成績が良くても、対策を練られたら一気に急降下する世界です。変化を恐れず進化を目指す姿勢は、決して否定されるものではありません。 ただ、新たな取り組みがすぐに好結果につながるほど、プロの舞台は甘くもありません。ここで大事になるのは自分自身による見極めです。佐藤選手の野球人生は誰に何を言われようと、佐藤選手のモノです。新スタイルを継続するのか、以前の形とミックスさせるのか、元に戻すのか。方向性だけはしっかり固める時期に来ていると感じます。 三塁守備に関しては、ステップの踏み方などの基礎練習を辛抱強く繰り返すしかないでしょう。佐藤選手は上半身を器用に使える一方で、下半身の動かし方が不器用です。試合数が少ない学生時代であれば体がフレッシュな状態で試合に臨めるので、上半身に頼るスタイルでも乗り切れます。ただ、毎日試合があるプロでは、肩肘に疲れがたまる期間もあります。そんな時に下半身を使えなければ、ミスは増えてしまいます。だからこそ、佐藤選手は地道に下半身主導の守備練習を続けるべきなのです。 私は最近、パラ五輪の取材で車いすバスケットボールを体験する機会に恵まれました。フリースローに挑戦した際、自分が普段どれだけ下半身の力を上半身に伝えながらボールを投げていたのかを痛感しました。足で地面の反動を利用できなくなっただけで、距離を投げられないし、力の加減も一気に難しくなったのです。地面に接地している体の部位は足だけ。下半身をうまく使うことはそれだけ重要な作業なのです。 18日の日本ハム戦では足を動かした好守も見られました。下半身を使った守備練習を続けていれば、打撃にも必ず好影響が表れます。下半身の力をより利用して打てるようになれば、上半身の疲れから来る不調期間も短くできるはずです。まだ6月。7、8、9月と打ちまくれば、シーズン序盤の遅れは十分に挽回できます。足を使った守備練習の継続が、打撃向上の近道になると考えます。(日刊スポーツ評論家)