第2次政権で始まるトランプ的な“すばらしい新世界”の皮肉 到来するのは「貧富の差はますます拡大」「4年の任期で功績ゼロ」の未来か
2025年1月20日、第2次ドナルド・トランプ政権がスタートする。トランプ氏の今後の動向に世界から注目を集める中、経営コンサルタントの大前研一氏は「アメリカの未来は国民が自らの尊厳を見失う世の中になるかもしれない」と疑問を投げかける。いったいどういうことか。新刊『新版 第4の波』も話題の大前氏が解説する。 【写真】ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
* * * 第1次トランプ政権では最初の組閣で各分野の専門家を起用したが、すぐに意見が対立し、政権発足から1年前後で国務長官など30人近くもの幹部が辞任・更迭という異例の事態となった。今回はその“反省”の上に立ち、自分の思い通りになる忠臣=イエスマンだけを選んだわけで、本人が寝ていてもトランプ流の政策を遂行するだろう。 またトランプ氏は、有罪評決を言い渡された「不倫口止め料裁判」をはじめ多くの刑事裁判の被告となっているが、大統領の任期終了まで量刑言い渡しが延期されるなどして今後はやりたい放題だ。少なくとも中間選挙がある2026年11月までは大統領・上院・下院を共和党が制する「トリプルレッド」でフリーハンドだから、どんな政策を打ち出しても歯止めはかからない。 皮肉を込めて言えば、トランプ的な“すばらしい新世界”が始まったのである。トランプ大統領から見た「効率」「安定」が究極まで進んだら、100年近く前に発表されたオルダス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』のように、アメリカの未来は国民が自らの尊厳を見失う世の中になるかもしれない。 たとえば、トランプ大統領は「不法移民2000万人を強制送還する」と言っている。しかし、そんなことをしたらアメリカは人手不足がさらに深刻化して経済がひっくり返るだろう。 また、かつて鉄鋼業などが栄えた中西部のラストベルト(錆びた工業地帯)に雇用を取り戻すと繰り返しているが、もはや工業社会時代の古い産業が息を吹き返すことはない。それを捨てたから21世紀型の産業が勃興し、アメリカ経済は世界最強になったのである。 あるいは、追加関税が課されている中国製品にさらに10%の関税を上乗せし、メキシコとカナダからの製品にも25%の関税を課すというが、それで最も困るのはウォルマートなどの国内企業であり、アメリカの消費者だ。アメリカ経済は中国製品をはじめとする輸入品抜きには成り立たないし、関税は価格に上乗せされてインフレが進むからだ。 アメリカ人の合計純資産保有額は1990年以降、上位50%が大幅に増加し、下位50%は全く増えていない。トランプ流の「アメリカ・ファースト」が加速したら、国民の貧富の差はますます拡大するだろう。
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